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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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 自殺癖  願望、とでもいうのだろうか。多栄子は、悠弥の苦しみを知らない。この現世で、そんなものを知っているのは誰ひとりとしていないのだ。幼い頃から無口で暗くて、虚ろなまなざしは何もみようとしない――心に病を抱えた子供。悠弥はそういわれ続けてきた。最初に手首を切ったのは、小学三年生のとき。『高崎悠弥』という名で現在に生を受けてはみたもののわずか十年足らず――膨大な時の記憶や、もう誰もいないという寂寥と孤独、罪に対する自責――そんなものを抱えて生きてゆくことはできないと思った。
 ひとりでは……生きてゆけない。
 ――だってあの人はもういない。誰も自分に答えない。
 そんな悠弥を現実につなぎ止めたのは、『御師』である彼を標的に次々襲いかかってくるモノの姿だった。それによって自分が存在する意義を、いやおなしに刻みこまれてきた。それは、故郷高天原の天帝、天照の言霊だったのかもしれない。
 たとえひとりになろうとも――滅することあたわず――と。
 やがて外の世界と触れ合うことも、多少気を紛らわすことも覚えた。笑顔を作ることも、今ではできる。他人を気遣うことも。
 死ねないのは、感傷に浸って身を滅ぼすことが許される、人間ではないから。
 だから。
「ありがとうございます、おばさん。でも……おれはもう大丈夫。治療に専念しますよ」
 悠弥はどこか切ない痛みを堪え、笑った。
「本当に、ありがとうございます」
「何をいってるの。困った子ね」
「感謝、してます」
 ふ、と多栄子は息をつくと、悠弥を寝かせて白い布団をなおしてやった。幼い頃から妙に大人びたところのある子だったと思う。兄姉の歳は離れて独り立ちしており、両親は不仲、家には誰もいないことが多かった  そのためだろうと、多栄子は理解する。彼は、早く大人にならざるを得なかったのだ、と。「じゃあね。また、明日もくるから。家の方は、心配しなくて大丈夫よ」
「……はい」
 要り用の袋を置いて、多栄子は椅子から立ち上がった。悠弥は布団から手を出して、小さく振った。
「それじゃあくれぐれも自重して。大事を取ってね」
 悠弥は頷き、そして多栄子は出ていった。
 彼女自身、ふたりの子供と家庭を抱えつつ大変なはずである。本当に、幾ら感謝しても飽き足りないと、悠弥はそう思いながら多栄子を見送った。  こんなおれに……。