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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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 背中がドアの向こうへ消えると、悠弥は何かどっと疲れて吐息した。
 多栄子が持ってきてくれたのは、着替えや、教科書などの本、入院生活に要りようなもの諸々だった。
 全治、一ヶ月……重傷だよな。
 これからの時間を思うと、ため息がつきない。白い壁と天井に囲まれ、この閉鎖空間で過ごすうちにいやおなく考えなくてもよいことを試行錯誤する。救いようがないほど後ろ向きだとは思う。けれど悠弥は、この生き地獄から自分を救ってやる術を持たなかった。
 考えるのは、過去のことじゃねぇだろう。現実を認識しろ……。
 自分自身に、強くいいきかせ、眉を寄せて布団を被る。
「ねぇねぇ」
 悠弥はふと、布団の端を握り締めて引き寄せる手を止めた。窓際のベッド、立ち上がってこちらを振り返る美女の微笑。鮮やかなそれに、悠弥は軽く目を瞠る。
「高崎くん、おなか空いてない?」
「……はぁ」
 彼女は明るい光に、硝子の果物皿を翳して、
「メロンでもどう? 美味しいのがあるのよ。うちの義貴がしばらく面倒かけるからさ、お近づきの印に」
「……」
 対入院患者見舞用の果物は、むかしっから根拠なく――林檎ときまっている。そんなところへきて早稲メロンなどという高級果物を出してくるあたり。
   うーむ。
 はいどうぞぉ、と差し出されたそれに、悠弥はおもわず皿を取り落としそうになってしまった。すとんと縦割りにしただけの半円形のメロンの姿に、大伴由美子の豪胆さを垣間見たような気がした。さすがは弁護士である。  根拠はないが、なんとなく。
「……姉さん、もう少し切り分けませんか?」
「いいの。どうせたべちゃうんだし……残すんじゃないわよ、病人なんだからちゃんと食べるのよ」
「姉さん……」
 この姉弟……。
「すみませんね、高崎くん。……というわけだから。食べてやって下さい」
「はぁ。……ありがとうごどいます」
 悠弥は、しげしげと――一刀両断された夏の果物の片割れを眺めやった。