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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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 悠弥はそれには答えず首を傾げただけだった。悠弥ちゃん、と多栄子が窘めたが、担任はかまいませんというように手を振って、多栄子を制した。
「躯は大事にな。……それでは、失礼します」 最初は悠弥、つぎに多栄子に会釈して、肩越しひとつ手を振ると彼は退室していった。 ドアが閉じる音を聞き、やれやれと悠弥が肩を下ろしたとき、再びドアが開けられた。入れ違いにやってきたその女性に、ふと目を上げる。
 すらりとした、背の高い――品のいいスーツに身を包んだその女性には凛とした印象を受ける。見るからに理知的な雰囲気を放ちまくっているその女性は、軽く悠弥たちに頭を下げた。
 彼女の名前は大伴由美子という。六人部屋であるこの病室に昨日やってきた悠弥が彼女の事を知ったのは、当然昨日のことだ。先刻からおとなしく読書に耽っているこの病室のもうひとりの間借り人、大伴義貴の姉である。 自己紹介によると、大伴義貴は大学四年生だそうだ。姉の方は闊達だが弟は口数も少なく、対称的におっとりしたタイプらしい――悠弥はそう第一印象から見て取っていたりするのだが……そうそう、ついでにこの姉弟、そろってそこそこに美形で、大伴義貴のどこかしら謎めいた雰囲気は、看護婦たちに大受けであるらしい。
「それじゃあ、悠弥ちゃん――」
 多栄子の声で、悠弥は我に帰った。
 彼女は持ってきた紙袋を無機質なパイプベッドの脇に置きながら、気遣う声で、
「今日のところはこれだけね。必要なものがあったら遠慮なくいうのよ」
「すいません、迷惑かけて」
「なにいってるの。私は全然かまわないのよ」
 多栄子は、悲しそうなに目を伏せて、神妙な顔つきになった。諭すように、小さな声で、
「私は心配なの。昔からくらべるといくらかましになったから、最近は少し安心していたのだけど。でも、……悠弥ちゃんの目は、ときどき不安だわ。小学生の頃から、自分を傷つける癖があるでしょう。それもおちついてはいたみたいだけど……だけどね」
「ああ……、これのことですか?」
 悠弥は笑って、左手首を翳して見せた。二筋ほど走る傷。
「大丈夫ね。へんなことをしないでね。ひどい事故だったけど、せっかく助かった命だもの……あなたはまだ、生きてなくちゃ駄目なのよ。……分別、つくわよね」
「……ええ」