Light And Darkness
どだい人体の神秘にしては限度というものがあるのだ。看護婦たちの噂は、自然、耳に入る。この病院の患者の中での注目度が、ゆえにやや高いことがわかる。
肋骨が三本折れてうち二本が左の肺を貫き、左足を骨折。数え切れない裂傷と擦過傷と多量の出血。大手術の上、経過も順調。
「まったく……大した強運だなァ。高崎」
面会謝絶の札が取り下げられて見舞いにやってきた若い担任教師は、渋い顔でそう言った。
午後の面会にはまだ早い時間で病院内は比較的静かだった。昨日移動してきたこの六人部屋の病室には患者は悠弥の他ひとりしかおらず、その彼はおっとり本など読んでいる。看護婦の話では、悠弥に負けず劣らず重傷を負って運びこまれてきたという。奇妙な縁だ。 彼は窓際、悠弥は廊下側のベッドである。……この病院、案外と空いているらしい。
土曜日の昼下がり。夏の入り、外は恨めしいくらいいい天気だ。
傍らで頭を下げてくれるのは、面倒見のいい近所のおばさん……多栄子。
「本当にご面倒おかけします、先生」
「いえいえ、災難だったのは高崎君のほうですから。……まぁ、なぁ? 授業をさぼっていたのをさっぴいてもな?」
「へいへい」
軽く睨まれた悠弥は、ベッドの上でまな板の上の鯉になる。
「しかしまぁ、それで爆発事故に巻き込まれるとはなぁ」
「本当に……」
「警察沙汰になってしまいまして。屋上に爆発物を仕掛けるかなにか、軽い悪戯気分の連中の仕業だろうって話です。どうも証拠なんかが見つからないらしいんだが……何にしても、気分が悪い話で困りますよ」
やれやれだ、と担任は肩を竦める。
「犯人は外部の人間とは限らんだろうし」
「まぁね。そうですね」
頷いてはみる悠弥だが、この爆発事故も、屋上からの転落も、自分の不手際……自業自得だ。火のないところへ吹き上がった煙の捜査に駆り出された警察の皆さんには心の中でご苦労様というしかない。
そんな悠弥の内心を知らぬ担任は、近況報告を終えると伸びをして立ち上がった。
「まぁ、治療に専念するんだな。おいおいクラスメイトが見舞いに来るだろう。体に障らんかぎりは相手してやってくれ」
「……なんだか傷が悪化しそだな……」
「はは。そういわずに。それと、授業には出た方がいいぞ。いい教訓になったろう」
作品名:Light And Darkness 作家名:さかきち@万恒河沙