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天女の血

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真剣な、嘘はほんのひとかけらも感じられない眼差しが、自分に向けられている。
その眼差しが胸に焼きつく。
あなたのことは俺が絶対に護ります。
ふいに、耳に声がよみがえった。
昨日の帰宅途中、あの男がやってきたときに、建吾が告げたことだ。
そして。
俺も決めています。あの雨の日から。
男の去ったあとに建吾の言ったことも、思い出した。
ああ。
あれは、そういうことだったのか。
美鳥は納得する。
建吾は五人もひとを殺した殺人鬼を眼のまえにして、さらに男が尋常ではない姿に変化したあとも、怯まず、立ち向かい、相手を圧倒した。
自分の強さを信じていなければできないことだ。
その自信は、日々、身体を鍛え、強くなる努力をしてきたからこそのものだろう。
四守護家の生まれだから。
でも。
きっと、それだけではない。
護りたいと思う、護ると決めた、明確な対象がいるから。
あの雨の日から、ずっと。
それを思うと、心を揺り動かされる。
胸に温かなものを感じる。
だが、同時に、あの雨の日のことを思い出して、心が痛んだ。
律子の葬儀。
自分を生み育ててくれた母と別れた日のこと。
「昨日、あなたに会って、変わっていないと感じました」
建吾は表情をゆるめた。
「前日に自分を襲った男が眼のまえにあらわれて、あなたは俺の腕をつかんで止めて、あの男に近づくなと言いました。そのときに、変わってないと思いました」
少し遠い眼をしている。
過去の美鳥と今の美鳥を重ねているのかもしれない。
「俺が護ろうと決めたときのままだと感じました」
その話を聞きながら、美鳥の頭には律子が生きていた頃のことが浮かんだ。
明るいひとだった。
もちろん、たまに落ちこんだ様子を見せることもあった。
しかし、たいてい、元気な笑顔を美鳥に向けていた。
私は小さい頃にお父さんとお母さんが死んでしまったから、ずっと家族がほしかったんだ。
幼い美鳥にそう話したときも、律子は暗くならずに笑っていた。
「あなたは俺のように武芸の鍛錬をしてきたわけじゃない。自分にはかないそうもない相手に狙われて、恐かったはずだ。それでも、あなたは俺をあの男に近づかせないように動いた。そういうところは、本当に、あの雨の日から変わってない」
作品名:天女の血 作家名:hujio