天女の血
どうしたらいいのかわからずに美鳥が立ちつくしていると、建吾はさらに言う。
「その格好の、一体どこが大丈夫なんですか……!?」
厳しい声で問いかける。
同時に、その視線を美鳥の胸元のあたりに走らせた。
だが、それは一瞬のことで、直後、見たくないものを見たように整った顔をゆがませ、眼をよそに向ける。
美鳥はハッとした。
ブラウスの裾が全部、スカートから出ている。
そのボタンは一番下しか留まっていない。
それも、対となるボタンホールから、ひとつズレている。
ボタンが留まっていないところは開いた状態で、そこから肌やブラジャーが見える。
自分がそんな格好でいることを思い出した。
あわてて、ブラウスのまえを合わせる。
合わせた部分を強く握る。
しまった……!
そう胸の中で叫ぶ。
服装を直している途中で思い出して取り乱して動けなくなったことを、後悔する。
こんな格好を建吾に見られたことを、恥ずかしく思う。
今まで、ショックで、自分を見失っていた。
しっかりしなければいけなかったのに。
「……未遂だったから」
美鳥は声をしぼり出した。
弱々しい声。
「やめてって言ったら、やめてくれたから……」
自分がした弁解も恥ずかしく感じる。
言ったことは嘘ではない。
けれども、なにもされていないわけではない。
それが一目でわかる格好でいるのだ、自分は。
言い訳しようがない。
美鳥はうなだれる。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、たまらない。
「……すみません」
建吾の声が聞こえてきた。
「責めるようなことを言ってしまって」
その声にはもう激情はにじんでいない。
だが、いつもよりも低く重い。そして、苦い。