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天女の血

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しかし、美鳥は電話には出ず、携帯電話を机の上にもどした。
それから、さっき外から叩かれた窓のほうへ歩いていく。
その窓のそばで立ち止まると、カーテンを少し引いた。
窓ガラスの向こうには、やはり、建吾が立っている。
建吾は美鳥を見た。
眼を見張った。
端正な顔が一気に強張っていく。
その表情の変化について考えずに、美鳥は解錠し、窓を開けた。
建吾は眼をそらした。
口を引き結び、眉根を寄せ、なにかを追い払うように頭を少し左右に振った。
そして、窓枠に手をやった。
難なく窓を越えて、教室に入ってくる。
邪魔にならないように、美鳥は後ずさった。
足を止めると、なんとなく、うつむいた。
黙っている。
正面に、建吾が立った。
うつむいているから、その顔は見えない。
建吾も黙っている。
だが。
しばらくして。
「大丈夫ですか」
そう問いかけてきた。
だから。
「……うん」
美鳥は返事をする。
「大丈夫」
心配させたくないと思った。
大丈夫だ。
これぐらい。
未遂だったのだ。
ケガもしていない。
そう自分に言い聞かせる。
けれども。
「大丈夫な、はずがない……!」
建吾が声をあげた。
その語気の荒さに驚き、美鳥は顔をあげて建吾を見た。
眼が合った。
強く鋭い眼差し。
激しい感情がにじんでいる。
怒り。
やりきれない想い。
それらが建吾の胸の中にあるのが伝わってくる。
美鳥は息を呑んだ。
ぶつけられる激情に圧倒されていた。
作品名:天女の血 作家名:hujio