天女の血
肌によみがえってきた。
さわられていたときのこと。
のしかかってきた男の身体は重たかった。
抑えつけてきた力の強さ。自分にはあらがうことができなかった。
君を組み敷くのは、鬼でなくても、特に鍛えていない普通の男でも、できることだろう。
耳に響く声。
そう、自分は弱い。
組み敷かれ、床の堅さをさんざん味あわされた。
あのとき、男の手が下半身に触れ、その指が中に入ってきた。
思い出す。
羞恥と、嫌悪と、恐怖。
それらが、まるで封じこめていたところから蓋を吹き飛ばして出てくるように、胸の中にわきあがり、全身に広がる。頭まで達する。
記憶に身体を乗っ取られる。
動けなくなる。
ただ、あのときのことを思い出していた。
支配されて、襲われて、自分の身体をもてあそばれていた。
それだけじゃない。
君だって嫌だろう。薬漬けにされて、不特定多数の男の相手をさせられるのは。
そんなの絶対に嫌に決まっている。
ぞっとさせられる話だ。
それを聞いた。
自分のことだと思いたくない。
でも、自分のことだ。
事実が胸に迫ってくる。
逃れられない。
心が乱れて、いろんな感情がわきあがって入り交じり荒れくるう。
苦しい。
なにもできなくなる。
ふと。
教室の窓のひとつが鳴った。
美鳥はビクッと震えた。
その窓のほうに眼をやる。
外にだれかがいて、窓を軽く叩いていたのだ。
さらに、携帯電話の着信音が聞こえてきた。
美鳥はなにも考えないまま、立ちあがる。
机の上の携帯電話を手に取って見た。
画面には、建吾からの電話だと表示されている。