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天女の血

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美鳥はハンカチをさしだした。
アロハシャツの男はそのハンカチを見る。
だが、その手は動かない。
その代わりのように、軽く笑った。
「アンタは気づいてなかっただろうが、電車に乗るまえから、アンタはあの男にあとをつけられてた」
「え」
美鳥は眼を丸くする。
まったく気づかなかった。
だからこそ、捕まってしまったのだ。
「それに気がついて、俺は、アンタのあとをつける男のあとをつけた」
男は言う。
「そしたら、アンタはあの男に襲われて、神社につれていかれた。まさかアイツが吸血鬼事件の犯人だとは思ってなかったが、アンタを襲った時点で犯罪者だろ。だったら、殴ったっていいだろって思った」
冗談のように話す。
「俺はケンカがしたかっただけだ。それも、できるだけ強いヤツとだ」
また、軽く笑う。
「だから、礼を言われる覚えはねーな」
さらりと告げると、男は眼をそらした。
ハンカチを受け取る気はないらしい。
それを察して、美鳥はハンカチをカバンに仕舞った。
けれども、感謝の気持ちは消えていない。
ケンカをしたかったというのは本当のことかもしれないが、助けてくれたのには変わりないのだ。
それに、ケンカがしたかっただけだと言って礼を拒んだのは、むしろ思いやりのように感じる。
相手の心の負担にならないように、と。
あるいは。
照れくさいのかもしれない。
などと思いながら、美鳥はその顔を眺める。
そろそろ日没の頃だ。
西の空の低いところにある太陽は大きく、黄色く輝いている。
地上のものはその光を浴びている。
そんな中、男の顔が整っていることに気づく。
彫りが深くて荒っぽくも見え、さらに神社にやってきたときは攻撃的な雰囲気をまき散らしていたので、粗野な印象しかなかった。
だが、今こうして落ち着いていると、印象が変わる。
そして。
陽が沈むまえにひときわ強く輝き、放った光を受けて。
栗色の髪が、赤く、燃えるような赤に見えた。
作品名:天女の血 作家名:hujio