天女の血
「どうやら、見たことがないらしいね」
察したように正樹が言う。
「僕はある。ただし、写真でだけど」
どうしてそんなことを話すのか。
疑問に思うのと同時に、自分の伯父がどんなひとたちなのか気になる。
「ふたりとも実年齢よりも若く見える」
それはそうだろうと、美鳥は納得する。
なにしろ明良の兄なのだから。
だが、正樹の話には続きがあった。
「でも、市川明良ほどじゃない」
正樹は美鳥の父をフルネームで呼び捨てにする。
「それに、ふたりとも男らしい顔をしている。市川明良のように中性的ではない」
これは意外だった。
父の兄なら、きっと、父のように中性的な顔立ちをしているのだろうと思っていた。
「僕には、市川明良は女に生まれる予定だったのが男に生まれ、だけど、女として天女の血を受け継いだように見える」
美鳥は眉をひそめる。
たしかに明良は中性的だが、まぎれもなく男だ。
正樹の説には違和感を覚えた。
けれども、その美鳥の否定的な反応に、正樹は揺るがない。
「市川、いや、春日明良が天女の血を受け継いだのなら、その血は君にも受け継がれているはずだ」
その明良が天女の血を受け継いだという前提が間違っている気がする。
だが、美鳥は無言のままでいる。
「さっき、君は僕の支配を破った」
正樹の眼が、一瞬、鋭く光った。
「僕のあの力は、他の鬼の一族の者たちを含めて、随一と言われてる。僕があの力を使ったときに対抗できる者は各一族の頭領クラスだけだ。それ以外は、同じ鬼でも、僕は支配してみせるよ」
その姿から絶対的な自信が漂っている。
「あんなこと、普通の人間にできるはずがない」
断言し、さらに続ける。
「それができるのは、君に特殊な血が流れているということだろう」
綺麗な双眸が美鳥をとらえている。
「そして、天女の血が君に影響を与えるのなら、君はもうすぐ成長が止まるんじゃないのか」
天女の血が目覚めていた曾祖母は七十代でも二十歳そこそこの姿だったという。
まさか、そんなこと。
美鳥は胸のうちで否定した。
否定せずにはいられなかった。
「いつまでも若い姿のままで、今と同じような暮らしはできない。君を外の世界から隠して護ってくれる場所に身を置くか、歳を取らないことがバレない程度に住む場所を変える流浪の生活をするか、どちらかになるだろう」