天女の血
逃げたい。
助けを呼びたい。
でも、そんなことをすれば先生はどうなるのか。
正樹が本気なのかどうかはわからない。本当に、美鳥がさわげば、西村に死ねと命じるのだろうか。
わからないから、わからないからこそ、試せない。
もしも正樹が本気であれば、西村は死ぬことになる。
死んでしまったら、もう取り返しがつかないのだ。
母親である律子のことを思い出す。
酔っぱらいにひき逃げされて、死んだ。
棺の中におさめられていたその遺体は、死に化粧がほどこされていたものの、事故による損傷が隠しきれていなかった。
それを見たとき、心に強い衝撃を受けた。
その傷が、自分にあるように、痛かった。
そして、母がもう動かないことがわかって、悲しかった。
死の残酷さを知っている。
また、残された者のつらさを知っている。
だから、死なせたくない。
そのためなら。
自分の身を。
犯されても。
殺されるわけではないのだから。
でも。
正樹の指が自分の下半身にある。
長くて綺麗な指であるのは、これまでに何度も見たので知っている。
その指が、普段は下着に護られているところに触れてくる。
中に入ってくる。
支配下にあったときよりも、深く。
身体が強張る。
もう、耐えられない。
口を開く。
「やめて」
さわいでいると判断されない程度の声をあげる。
「お願い……!」
どうしても嫌だ。
これ以上のことはしないでほしい。
その強い思いを、声に精一杯にじませた。