天女の血
視界は真っ暗闇だ。
「賢いね」
近くから、正樹の声がした。
「それに優しい」
なめらかで、艶のある声。
それが肌をぬるい風のようになでて去っていく。
「美鳥」
名前を呼ばれた。
ただそれだけなのに、こんな状況であるのに、ぞくりと、背中から首筋へと駆けあがってくるものがあった。
正樹は相手がそうなることをわかっていて、したのだろう。
自分の容姿や声がどれほど魅力的なのかをきっと知っている。
唇に正樹のそれが重ねられたのを感じた。
くちづけられる。
美鳥はされるがままでいる。
未経験のときになにか憧れがあったわけではないが、こんなふうに経験済みになるなんてまったく予想していなかった。
悲しい。
ふと、そう感じて、けれども、その気持ちを抑えこむ。
抑えこまなければ泣いてしまいそうだ。
泣きたくない。
正樹が移動した。
胸元に唇を落としてくる。
その感触に、美鳥は身体を震わせた。
しかし、正樹はそれにかまわずに続ける。
こうしたことに慣れているらしい。
美鳥の緊張を解きほぐすように動き、その動きに美鳥の身体はいちいち反応してしまう。
眼を開ける。
かすんだ視界。
天井が見えた。
次に、その周囲、カーテンが眼についた。
この教室のすべての窓のカーテンは閉め切られている。
だから、外からは見えない。
なんだか息苦しさを感じる。
そんな中、自分は床に身を横たえている。
床の堅さは知っているつもりだったが、今、背中を何度もぶつけたことで身にしみてよくわかった。
そして、身体の上には男がいる。
美しい鬼。
美鳥を見おろして、裸に近い身体をもてあそんでいる。
その手が、美鳥の足をつかんだ。
「!」
美鳥は息をのむ。
足を開かれている。
不格好に。
制服のスカートはめくれている。
下着はさっき脱がされた。
この格好だと、見える。
嫌だ。
恥ずかしい。
それに、恐い。
この先なにをされるか知っていて、それが間近に迫ってきているのがわかって、恐い。
嫌悪と羞恥と恐怖。
それらの感情が入り交じり、ふくれあがり、大きく波打つ。
胸を激しく揺さぶられる。