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天女の血

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正樹から離れた。
その美しい顔をにらみつける。
だが、正樹はひるまない。
「……へえ」
それどころか、おもしろそうに、笑う。
「僕の支配を破ったのか。通常なら、この程度の時間の経過では自然に解けないからね」
眼の色は黒にもどっている。
おそらく、その色が赤に変わったときに他人を支配する力が使えるのだろう。
「父親の血のせいかな」
正樹は美鳥から眼をそらし、なにかを考えるように虚空を見た。
けれども、すぐにまた、その眼を美鳥に向ける。
「僕が変化しなければ大丈夫だと思ってる?」
そう問い、身を乗りだしてくる。
美鳥は無言で、ふたたび身を退く。
「でも、たいてい、女のひとより男のほうが力が強いよ」
綺麗な眼を細め、頬に笑みを浮かべて、正樹は近づいてくる。
それに対し、距離が詰まらないように、美鳥は身を退いた。
「それに僕は鬼だ」
正樹はまえへと進む。
「それも、鬼の一族の頭領だ」
美鳥は床を蹴って、立ちあがった。
身をひるがえして逃げる。
しかし。
「だから、変化していなくても、君より、ずっとずっと強い……!」
正樹も立ちあがり、追ってきた。
あっという間に、美鳥は捕らえられた。
身体を抱かれる。
強い力。
さっき正樹が言ったとおりだ。
あらがおうとしても、抑えこんでくる力のほうがはるかに強くて、びくともしない。
その圧倒的に強い力で下へと引っ張られる。
無理矢理、床へと倒された。
さらに、あおむけにされる。
身体の上に正樹がいるのが見えた。
自分は組み敷かれている。
どうすればいい。
美鳥は考える。
そして、大声で、家庭科室の外に助けを求めようとした。
けれども、開きかけた口を、ふさがれる。
唇を奪われていた。
支配下にあったときに唇を重ねてきたのとは違い、荒々しい。
それがようやく終わったころには、美鳥の身体から力が抜けてしまっていた。
「さわがないでって言ったはずだよ」
正樹は冷静な声で告げる。
「先生がどうなってもいいの?」
先生。
西村のことだ。
ハッと思い出して、美鳥は頭を動かした。
この状態でも西村が見える。
西村はパイプイスに腰かけて眠っている。
膝の上に包丁を置いたまま。
正樹の支配下にあるのだ。
さっきまで自分もそうだったからよくわかるが、正樹の指示されたとおりに動くはずだ。
死ねと言われれば、みずから命を絶つ。
想像して恐くなる。
美鳥は眼を強くつむった。
作品名:天女の血 作家名:hujio