天女の血
胸から手が去っていった。
けれども、胸のふくらみには手のひらの感触が残っている。
「……天女といえば」
そう話し始めた正樹の手が、美鳥の足に触れた。
「能の羽衣では、漁師があっさり羽衣を返して、それで天女は舞を舞いながら天に帰ってゆく」
美鳥のまぶたの上に図書室で読んだ能の本の羽衣の章のページがよみがえった。
漁師は白龍という名だったとぼんやりと思い出す。
一方、正樹の手が美鳥の制服のプリーツスカートをたくしあげた。
「でも、あの謡曲の元になった伝説では、漁師は羽衣を天女に返さなかった」
肌の上を正樹の手のひらが動く。
さっきまでスカートの下にあった太ももをなでている。
「だから、天女はしょうがなくて、漁師の妻になった」
手が太ももの上にある下着に触れた。
「天女伝説をより古いものへとさかのぼっていくと、日本を離れて中国に行く」
腰を床から少し浮かされた。
そして、下着を引きずりおろされた。
太もものほうへ、さらに膝のほうへ、それから足首のほうへと下着が移動するのを感じる。
「その中国の話でも、天女は羽衣を隠した男の妻になる」
下着が足から離れた。
完全に脱がされた。
そのあと、下着がどこにやられたのかは見えない。
「僕の知っている天女伝説のほとんどは、天女は人間の男の妻になる」
正樹の手が美鳥の足のほうにもどってきた。
足をなであげる。
「いや、羽衣を奪われて、妻にされるんだ」
その手は下着に隠されていた場所にたどりつく。
恥部といわれるところ。
「天女は地上の男に落とされるもの、なのかもね」
そこに、指が入ってくる。
美鳥はビクッと身体を震わせた。
眉をひそめ、息を短く吐き出した。
ふと、頭に浮かんでくる。
明良、律子、乃絵、建吾、十兵衛、圭……、彼らの姿が次々に浮かんできた。
自分を護ってくれるひとたち。
彼らがいてくれる。
いてくれる、のに。
今の自分は人形のようにされるがままでいる。
それでいいの?
問う声が頭の隅から聞こえてきた。
いいわけがない……!
胸の中で、さけんだ。
視界は相変わらずぼんやりとしているが、頭はすっきりと晴れた。
「嫌っ!」
美鳥は拒絶の言葉を口にしながら、身体を起こす。
さらに、床に座った状態ではあるものの、素早く身を退いた。