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天女の血

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初めて聞く声だ。
自分を捕らえているのが何者なのか、わからない。
この男は、きっと、美鳥が来るまえから家庭科室にいて死角となる場所に身をひそめていたのだろう。
「僕は催眠術のようなものが使えるんだ」
男の声は落ち着いている。
しかも美声だ。
こんな状況なのに、美鳥の耳に艶やかにも響く。
「そして、彼女は催眠術がかかっているような状態」
彼女とは西村のことに違いない。
西村は包丁の刃先を首に近づけたまま、ぼうっとした表情で立っている。
意志を無くしているように感じる。
「今の彼女は僕の指示どおりに動く。君をここに呼びだしたのも、そう」
つまり、この男に操られて西村は美鳥を家庭科室に呼びだしたということ。
まわりくどいとも言えるやり方を男がしたのは、学校の外で護衛が待っているのを知っているからではないのか。
だから、狙うなら校内と考えたのだろう。
美鳥は罠に飛びこんでしまったのだ。
「それから」
さらに男は続ける。
「僕が死ねと言えば、彼女はすぐにそうするよ。なんのためらいもなくね」
西村の首の近くにある包丁の刃先。
それが、首をかき切る。
肌が切り裂かれて、鮮血が噴きだす。
一瞬、そんな光景を想像してしまった。
背筋が凍る。
恐い。
男の話はただの脅しではなく、真実であるように感じる。
もし男が西村に指示をしたら、さっき頭に一瞬浮かんだ光景を実際に見ることになってしまう。
そう思うと恐い。
絶対に、起こってほしくない。
「さわがないでくれるよね?」
男は丁寧な口調で問いかけてくる。
その優しい声も、恐い。
口を男の手でふさがれたまま、美鳥はうなずくしかなかった。
作品名:天女の血 作家名:hujio