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天女の血

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「……なかなかおもしれえ話が聞けたし、帰るわ」
もういいだろうと判断して、十兵衛はイスから立ちあがった。
「十兵衛」
名を呼ばれた。
まだなにかあるのだろうか。
「なんだ」
「ヤツらがうちに依頼しに来たということは、おそらく、吸血鬼事件の犯人はこの近くまで来ているということだ」
都築は座ったまま、十兵衛を見あげている。
「巻きこまれるんじゃないよ」
警告だ。
「君は義侠心に富んでるから、仕事じゃなくても突っこんでいきそうで、心配だ」
残念ながら、とうの昔に巻きこまれている。
それも、たった今、都築が言ったように、自分から突っこんでいった形で。
だが、そんなことは知らせない。
「俺が義侠心に富んでる? なんの冗談だ、それ」
十兵衛は鼻で笑う。
「俺がケンカするのはケンカが好きだからだ。義侠心とかじゃねえよ」
なにしろケンカバカだからなあ、俺は。
そう付け足した。
そして、さっさと踵を返す。
都築はもう呼び止めようとはしなかった。
だから、十兵衛は事務所をあとにする。
階段を三階分おりて、外に出た。
ビルの建ち並ぶ通りだ。
夜遅い時間だが、室内に灯りがついているのがガラス越しに見える窓がいくつもあり、あちらこちらの看板もまばゆい。
空にあるはずの星は地上の光に負けてしまっている。
しかし、満月は見える。
厄介だなと十兵衛は思った。
コウヘイキが絡んでくるなら厄介だ。
したたかな都築がヤバすぎると判断する相手。
だが、この件に関わったことに後悔はない。
手を引くつもりもない。
うまいメシを食わせてもらったしな。
今日ふるまわれた夕飯を思い出しながら、十兵衛は軽い足取りで歩いた。









作品名:天女の血 作家名:hujio