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天女の血

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美鳥は冷静な表情のままメガネのブリッジを押さえる。
「じゃあ、行ってきます」
歩きだした。
そのとき。
「気をつけて」
建吾の声がした。
さっき十兵衛と話していたときとは違って、やわらかだ。
なにか眼に見えないものに引っ張られるように、美鳥は建吾を見た。
眉目秀麗という言葉がぴったりくる、顔。
優しい笑みが浮かんでいる。
その笑みは美鳥に向けられている。
顔がいいのは得だ。
それに、なんだか卑怯な気もする。
向こうは何気なくしたことでも、こちらは落ち着かない気分になる。
自分はクールな性格で知られているので、そんなことは隠しておきたい。
美鳥はできるだけ自然なふうを装って、眼をそらした。
ふたたび、歩きだす。
圭と合流する。
一緒に歩き、居間から出るまえに、建吾と十兵衛がいるほうを振り返った。
建吾はさっきまでと同じイスに座っている。
だが、十兵衛はさっきは建吾の向かいに座っていたのが、隣に移動していた。
十兵衛は建吾に民俗学の話をしている。
自分の専門の話をしたいといこともあるだろうが、建吾と仲良くなりたいということもあるようだ。
親睦を深めればケンカの相手をしてもらえると思っているのかもしれない。
おかしくて、つい、美鳥は小さく笑った。
そして、居間を出た。

あたりは暗い。
今いるのは空き地で、外灯は道にポツンとあるが、調子が悪いらしくてその陰りのある光はここまで届かない。
邪魔なのは、むしろ満月。
白銀の月は明るすぎる。
しかし、その光も、男の犯行を照らしだすほどではない。
「チッ、たいして入ってねーじゃねェかよ」
男は忌々しげに舌打ちした。
足下には、中年の男がうつぶせで倒れている。
ピクリとも動かないその身体はケガをしている。
ケガをさせたのは男である。
相手が意識を失うまで殴ったのだ。
作品名:天女の血 作家名:hujio