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天女の血

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「そーゆーことなら」
「喜んで」
「ああ、このふたりは若い男だから、かなりの量を食べると思ったほうがいいぞ」
口々に答えた青年ふたりについて、圭が忠告した。
美鳥は建吾を見る。
「そんなに食べるの?」
十兵衛はともかくとして、建吾は体格は良いものの小食のように見える。
イメージだ。
なにしろ、王子と呼ばれているぐらいなのだから。
ガツガツ食べているところを想像できない。
しかし。
「ええ、まあ、それなりに」
建吾は気まずそうな表情で肯定した。
どうやら、かなり食べるらしい。
「そうなんだ」
意外ではあるが、別にそれならそれでいいと、美鳥は思った。
「じゃあ、食材とか、買いに行ってきます」
美鳥はイスから立ちあがった。
頭には、駅とは反対の方角にある近所のスーパーマーケットが浮かんでいた。
「俺が付いていきます」
建吾も立ちあがった。
あの男が今日はもう襲ってこないとは限らないので、付いてきてくれるのはありがたい。
そう美鳥が思った矢先。
「あ、俺も行く」
十兵衛も立ちあがった。
「またアイツが来たらケンカできるからな」
「……ちょっと待て」
思わず、美鳥は低い声で止める。
「ふたりも、いらないでしょ」
長身のふたりに挟まれて移動する自分の姿を想像してしまった。
しかも、ふたりとも目立つ。
「それなら、どっちにするか、選んでくれ」
あっさりと十兵衛は言った。
建吾は黙っているが、退く様子はない。
選ぶ。
派手なアロハシャツを着て、顔の彫りが深く、ケンカバカの本性が身体からにじみ出ている十兵衛。
品行方正な雰囲気が漂っているが、端正な顔立ちがやたらと人目を集める建吾。
どちらにも助けられたことがあって、どちらにも恩のある状態だ。
どちらにするか。
う、と美鳥は言葉に詰まる。
困った。
選べない。
作品名:天女の血 作家名:hujio