天女の血
「俺も、できるだけ美鳥さんに付きます。志貴川高校に転入したら、学年が違うので一緒に行動はできませんが、同じ校舎内にはいられますし」
建吾は穏やかに笑った。
なんとなく、美鳥はほっとする。
心が明るくなった。
顔がいいのは、やっぱり得かもしれない。
「まァ、俺も、暇があれば、ここに来るわ。バイク飛ばしたら、そんなに時間かからねェしな」
車庫に停まっていたバイクは十兵衛のものであるらしい。
「どこに住んでるの?」
「新須見駅の近くだ」
十兵衛の回答に、美鳥の身体は一瞬硬くなった。
「俺はひとり暮らししてるんだが、あのあたり、いい部屋が安く借りられるんだよ」
「……それはそうでしょう」
条件の良い部屋が安く借りられるのには、もちろん、ワケがある。
周辺の環境だ。
「深夜でも外がさわがしかったりするが、部屋は広いし、バイクを置ける駐車場があって、しかも家賃が安いから、ありがてェ」
十兵衛は明るく続ける。
「そのうえ、道を歩けば因縁つけてくるヤツが結構いて、ケンカができるしな」
つまり、物騒な地域であるということだ。
「だが、そーいや、最近さァ、眼が合うと因縁つけてきたヤツらが眼をそらすようになって、つまらねェんだよな」
どうやら狂犬認定されたらしい。
「それで、ケンカしてるのを見かけたら、人数の少ないほうを応援するようにしてたら、今度は、アニキとか呼ばれるようになったんだよな。その呼んでるヤツら、俺よりずっと年上だったりするんだ。変だよなァ」
本人が望んでいないのに舎弟が何人もできたようだ。
なかなか、すごい。
平然としている十兵衛に、建吾と圭がなんとも言えない微妙な眼差しを向けている。
もしかすると、建吾はますます十兵衛が苦手になったのかもしれない。
話題を変えようと美鳥は思った。
「ひとり暮らししてるんだ。じゃあ、今日の夕飯はどうするの?」
「ああ、適当にどこかで食べて帰る」
「それなら、うちで食べて帰れば? 私が作るし」
美鳥は圭と建吾を見る。
「白坂さんと宮本さんのぶんも、よろしければ。私、料理するのが好きなんだけど、お父さんが」
「明良は味覚オンチだからな」
続きを察して、圭が言う。
「腐ったものを食べても、腹をくだすまでわからないぐらいだ」
「そりゃ、すげーな」
「なにを作っても、おいしいって食べてくれるのは嬉しいんだけどね。できれば、味のわかるひとに食べてみてほしくなったりもするの」
調理部に入っているのはそのためである。