天女の血
五人の被害者の頸動脈のあたりには牙が突き刺さったような跡があったという。
あの牙が、それなのか。
あの牙を頸動脈に突き刺したのか。
ゾッとする。
まさか、本当に吸血鬼だったなんて。
眼を疑う。
悪い夢のようだ。
でも、これは現実。
夢のように覚めない。
どうしたらいいのかわからない。
おろそろしい。
喉が痛いぐらいに渇く。
一方、吸血鬼は足を踏みだした。
アロハシャツの男のほうへと。
襲いかかる。
その動きはまるで獣のようだ。
速い。
さっきとは逆に、アロハシャツの男を殴り飛ばした。
後方へと飛ばされて、しかし、アロハシャツの男も倒れはしなかった。
殴られたとき、とっさに攻撃をある程度はかわしたのだろう。
それでも、身体のバランスを大きく崩した。
しかし。
「……おもしれェじゃねェか」
アロハシャツの男は語気荒く言った。
怯んだ様子はない。
体勢を立て直す。
闘志をみなぎらせ、吸血鬼に向かっていく。
戦いが始まる。
だが、アロハシャツの男のほうが不利だ。
吸血鬼とは身体能力が違う。
ただし、ケンカ慣れしているらしいので、攻撃をうまく避けている。
けれども、防戦一方になっているし、このままではおそらく負ける。
なんとかしなければ。
そう美鳥は思った。
助けを呼ぼう。
叫べば、神社の外まで聞こえるはずだ。
口を開く。
「だれか」
出てきたのは、かすれた小声。
身体に力が入らなかった。
情けなく思う。