天女の血
端正な顔、その眉がわずかに寄せられる。
迷っているように。
少しして、その口が開かれた。
「あくまでも俺の印象ですが、あの男は鬼の一族とは完全に違うと思います」
「鬼の一族とは、さかのぼっても血のつながりはないと思うのか?」
「かなり昔までさかのぼれば、つながりはあるのかもしれない、でも、五人目の被害者のようには判明しない、一族からは切り離されるぐらいの遠さだと思います」
圭も眉をひそめた。
同意しかねるといった様子だ。
「鬼の一族は、それぞれの一族の頭領の血筋に近いほど鬼として能力があらわれ、遠くなれば消えてしまうものらしい。おまえの言うような遠さで、おまえたちが言うような鬼の能力が、突然変異であらわれるだろうか」
「俺は、むしろ、遠いどころか、つながりはまったくないと見ています」
それでも、建吾は退かなかった。
「これは勘です。あの男と対決してみての印象でしかありません。でも、あの男を鬼の一族と見ると、おかしい、と感じます」
ゆっくりと、だが、着実に話を展開していく。
「あの男は鬼の一族とは関係のないところで生まれ育ち、ある日、突然、鬼の能力を持つようになった。そんなふうに、俺は思います」
「おもしれえ」
部屋にあった重い空気を十兵衛の愉快そうな声が破った。
「アンタの、その説、おもしれェな」
十兵衛は建吾を見て、ニヤと笑う。
それとは対照的に、建吾は堅い表情で、ほんの少しだが身を退いた。
もしかすると十兵衛が苦手なのかもしれない。
初対面がアレだったので無理もないだろう。
しかし、十兵衛は気にした様子なく続ける。
「それにアタリかもしれねえ。たしかに、アイツは突然すごいプレゼントをもらって浮かれてるって感じがある。それまで持ってなかったものだから、使い方がまだよくわかってねェってな」
その眼差しは楽しげで、そして鋭くもある。
彫りの深い顔立ち。
全身からかもしだされる雰囲気のせいもあって、荒っぽく見えるが、ふとした瞬間、整っているのに気づかされ、肌は白く、繊細にも見える。
「それと」
十兵衛の顔が少し陰る。
「アイツにはすさんだ感じもある。そりゃ、五人もひとを殺せば、頭がおかしくもなるだろうが、なんてゆーか、まあ、仮に、ある日突然ああなったのが事実だとして、ああなる以前から、ろくでもない暮らしをしてたんじゃねェかと思う」
「同感です」
わずかに退いていた建吾が、もとの位置までもどる。
「突然ああいう能力を持って、だからといって、人殺しに走るでしょうか?」
「そうしなければ生きていけないのかもしれない」
「そうですね。でも、そうしなければ自分が生きられないから、ひとを殺す。通常なら、悩み、苦しみそうですが、あの男から苦悩は感じられませんでした」
「他人を圧倒する力を持ってることを楽しんでる感じなんだよなァ」
十兵衛は軽く言った。
けれども、直後、その眉根が寄る。
「本当に、趣味が悪ィ」
ぼそっと吐き捨てた。