天女の血
建吾は慎重に言葉を選んでいる。
真っ直ぐに通った高い鼻梁に、切れ長の涼しげな眼、大きすぎず小さすぎない形良い口、それらのパーツが綺麗に調和している顔の向こうで、明晰な頭脳を働かせ、深く洞察しているようだ。
「鬼については、これまで、一般的には伝説上の存在にとどまってきました。実際にいるかもしれない、いないかもしれない。いや、どちらかといえば、実際にはいないだろうと思われている。そんな存在であり続けたのは、鬼の一族がそう仕向けたからでしょう」
「ああ、俺もそう思う」
「鬼の一族は結束が固く、自分たちが実在することを他に知られないようにしているのでしょう。でも」
「今回は違う、か」
ふっと圭は笑った。
「たしかに目立ちすぎることをしているな」
「はい。鬼の一族の者たちがあの男のしていることを了承しているとは思えません」
「犯行現場はそれぞれ別の県で、かなり移動してるってゆーか、追っ手から逃げてるって感じもあるしな」
十兵衛が話に加わる。
軽い調子だ。
「追ってるのは警察だけじゃねーのかもな」
鬼の一族もあの男を追っているのかもしれない。
ありうる、と美鳥は思った。
「推測の域を出ませんが、鬼の一族はあの男を自分たちの一族の者と見なしていないのではないかと」
「だから、アイツが派手なことをやらかすようになるのを止められなかったってことか」
「おそらく」
建吾はうなずいた。
「あの男が特異な存在がいるのを世間に大々的に知られるようなことをするのも、戦い方を知らないのも、鬼の一族の者ではないからだと思います」
「だが、姿は鬼、なんだろう?」
口をはさんだ圭の声は鋭い。
「はい」
「俺は鬼の一族の者を見たことはねェが、アイツは昔話に出てくる鬼の特徴と共通してるところがいくつもある」
「だから、突然変異ではないのか」
「たとえそうであっても、鬼の一族から出たのではないと思います」
建吾は思いますと最後に付けて断言はしない。
けれども、その声も表情にも強さがある。
確信はしていないものの、自分の推論をそれなりに信じているのだろう。
「五人目の被害者のように、かなり昔に一族から離れていて、ノーマークだったとか」
「それよりも、もっと遠い気がします」
ふと、建吾の表情が揺れた。