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天女の血

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しかし、褒められた建吾は黙っている。相変わらず自分はたいしたことはしていないと思っているのだろうか。
圭の口元がほころぶ。
「だが、一番おまえらしい戦い方とは少し違うな」
その笑みは、からかっているようにも見える。
「圭さん」
建吾は名を呼んだ。
端正な顔に浮かんでいる表情はかすかに苦い。
圭が続きを話すのを止めたいようだ。
なぜなのか。
最も建吾らしい戦い方とは、どんなものなのか。
美鳥は気になった。
けれども。
「状況が良かっただけです。もし、人目につかないところで、美鳥さんが捕らえられている状態だったら、俺もあの男にぶつかっていくしかなかったでしょう」
建吾は強引に話を変えた。
そして、十兵衛を見る。
「そんな不利な状況で美鳥さんを助けたのは、すごいことだと思います」
その建吾の声から、十兵衛に対して本当に感心しているのが伝わってくる。
いきなり話を振られた格好になった十兵衛は肩をすくめた。
「すごくねえよ。助けたつもりもねえ。俺は強いヤツとケンカがしたかっただけだ」
それは違う。
そう美鳥は感じた。
同時に、見えてくるものがあった。
自分はやっぱり十兵衛に助けられたのだ。それも、ケンカのついでではなく十兵衛に助ける意志があってのことだ。
もしも十兵衛の言うとおり、ケンカがしたかっただけなら、あのとき逃げなかっただろう。
あとで手当をした圭が十兵衛は深い傷を負っていないと言っていた。
それなのに逃げたのは、美鳥をあの場から逃がすためだったのだろう。
逃げるぞ、と言い、腕をつかんできた。
だから、美鳥は逃げることができたのだ。
そんなことは、きっと、圭も建吾もわかっている。
それを十兵衛は察したらしい。
「ああ、俺のことは、どーでもいい!」
あたりの空気を打ち破るように声をあげた。
よほど照れくさいようだ。
「重要なのは、これから先のことだろ。この先どーするか考えないとな」
十兵衛は過去のことから未来のことへ話を転じた。
なにかを考えている表情になる。
少しして、美鳥を見た。
「アンタにとっては気味の悪い話だろうが」
十兵衛は申し訳なさそうに前置きをしてから、言う。
「一度失敗したのに、また、あらわれたってことは、それだけ、アンタにこだわってるってことだ」
それを聞いて、美鳥は思い出す。
あの男が去っていくまえに見せた、赤い眼。
執着、を感じた。
たしかに気味が悪い。
作品名:天女の血 作家名:hujio