天女の血
「あ、ああ」
美鳥は十兵衛のことを紹介しようとした。
だが、そのまえに十兵衛がイスから立って、近づいてくる。
「なァ、アンタが応援?」
十兵衛は建吾に向かってたずねた。
「はい」
素直に建吾はうなずく。
だれだかわからないものの敵ではないと判断したのだろう。
「四守護家の者なのか」
「そうです」
「名前は?」
「宮本建吾です。姓は宮本ですが、それは母の嫁ぎ先の姓で、母は圭さんの姉です」
「ってことは、白坂、白虎の家の者ってことだな」
十兵衛は建吾の正面で立ち止まった。
建吾を観察している。
「俺は、遠山十兵衛だ」
そう告げた口の端がわずかにあがった。
「なあ、アンタ、強いんだろ?」
愉快そうな表情。
展開が読めた、と美鳥は思った。
「俺とケンカしねェか?」
果たして、十兵衛は美鳥の予想したとおりのことを言った。
一瞬、間があった。
「……このひとは一体どういう?」
建吾は美鳥のほうを見て、聞いた。
困っているらしい。
それはそうだろう、いきなりケンカを売られれば。
「ただのケンカバカよ」
美鳥はきっぱりと言う。
「苗字がケンカで、名前がバカ」
「おいおい、どんな名前だ、それ。だいたい、さっき、遠山十兵衛って名乗っただろーが」
「でも、どっちが本性を言いあらわしているかって言えば、ケンカバカのほうでしょ?」
「アンタ、ツッコミが鋭すぎるって言われねェか?」
「特技なの」
冷静な声で告げ、メガネのブリッジを押さえた。
以前に乃絵から美鳥の絶妙なツッコミが好きだと言われたことがある。
それでも、相手によっては遠慮する。
しかし、十兵衛ならその必要はないだろう。
実際、十兵衛は平然としている。楽しそうでもある。