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天女の血

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「あの男は自分の犯行をできるだけ他人に見られたくない。だから、いつ、だれかが来るかもしれない道で、戦いを、騒ぎを長引かせたくないはずなんです。実際、だれかが来るのがわかると去っていったでしょう?」
建吾は丁寧に解説する。
「判断を誤ったんです、あの男は。俺が美鳥さんについていたから、他にひとのいない道で襲ってくるしかなかったのでしょうが、だったら、速攻で襲ってくるべきでした。それなら、まだ、あの男に勝機があったでしょう」
その分析は鋭い。
「あの男は戦い方をよくわかっていない。あんなふうに姿を現した時点で、俺は勝てると判断しました」
あのとき、一歩まえへ出て、自分は強いとあの男に告げたとき、建吾はその判断をしていたのだ。
緊迫した状況の中、頭脳を冷静に働かせて。
おそらく、瞬時に。
「俺はあの男がどれほどの力を持っているのか知りません。単純な力勝負なら負けるのかもしれない。でも、俺にとって勝ちは、美鳥さんを護ることです。力勝負で勝ちたいわけじゃない。だから、戦いを長引かせたくない相手に対して、長引くようなことをしました」
「じゃあ、時間稼ぎをしたってこと?」
「そうです」
建吾は素直に認めた。
「だから言ったでしょう? たいしたことはしていないって」
穏やかに笑う。
「でも」
美鳥の口から反論する言葉が出た。
違う。
なにかが違う。
そう頭が告げている。
違和感があった。
たいしたことではない。
そんなはずはない、と頭が否定する。
この違和感の正体はなに?
作品名:天女の血 作家名:hujio