小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

天女の血

INDEX|47ページ/146ページ|

次のページ前のページ
 

異形の者と対峙していて、臆しない。
それどころか、今、主導権を握っているのは建吾のほうだ。
場を支配する。
戦えば勝つ。
そんな王者の風格のようなものが建吾の身体から漂う。
変化した男が足を踏みだそうとしない。
襲ってこない。
建吾の放つ強い気に圧倒されたように、立ちすくんでいる。
ふと。
甲高い音が緊迫した空気を打った。
携帯電話の着信音らしい。
だが、少し離れたから聞こえる。
ここにいる三人の所有している携帯電話ではないのだ。
今はその姿は見えないが、だれかがこの近辺にいる。
こちらにやってくるかもしれない。
「チッ」
男が舌打ちした。いまいましげな表情をしている。
その赤い眼が美鳥をじっと見た。
執着するように。
けれども、それは一瞬のことで、男はさっと身をひるがえした。
やってきた方向である十字路の左手のほうへ、走る。
撤退していく。
男の姿が完全に見えなくなったあと、十字路の右手のほうから年配の男性があらわれた。
携帯電話でだれかと話をしながら、道を折れ、こちらへやってくる。
道に立ち止まっている美鳥と建吾に気づいたようで、その視線が無遠慮に向けられた。
しかし、その眼はすぐにそらされた。
自分の用に集中することにしたらしい。
さっきまでと変わりない様子で、携帯電話でだれかと話しながら、美鳥と建吾の横を通りすぎていった。
そちらのほうを振り返るのは不自然なので確認はしていないが、遠ざかっていくがわかる。
しばらくして。
「美鳥さん」
建吾が話しかけてきた。
「大丈夫ですか」
そう問いかけてくる声は落ち着いていた。
美鳥は自分の肩から力がふっと抜けるのを感じた。
ほっとした。
作品名:天女の血 作家名:hujio