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天女の血

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建吾はさっき美鳥がつかんでいた腕を少しあげた。
敵である男のいるほうではなく、横へ。
美鳥を護るように。
引き締まっていて、美しさも感じさせる、腕だ。
よく鍛えているのがわかる。
それが自信につながっているのだろう。
立っているその姿に隙はない。
腕を少しあげてからは動いていないが、男を恐れて動けないのでも、護りに入ったというわけでもなさそうだ。
全身から放たれる気は、攻撃的。
気圧されたように男が口を引き結ぶ。
悔しそうな表情をしている。
歯を食いしばっているらしい。
その顔が変わる。
口が開かれた。
声を発していないが、ほえているような開き方だ。
美鳥の身体がビクッと震えた。
似た状態を見た。
昨日の夕方、神社の境内で。
だから、この先なにが起こるのかがわかる。
その予想通り、男は変化していく。
開かれた口から鋭い牙が伸びる。
頭に、角らしきものが二本、あらわれる。
そして、こちらをにらみつける眼が、赤く光る。
鬼だ。
人ではない。
勝てるわけがない。
そう美鳥は思った。
変化した男は余裕を取りもどしたように笑う。
だが。
「それがどうした」
美鳥の眼のまえにある建吾の背中は揺るがない。
「俺が恐れるとでも思っているのか」
怯んだ様子は、一切ない。
「バカバカしい。おまえが向かってくるのなら、俺はおまえを倒す」
建吾は断言した。
その姿は力強く、自信に満ち、傲慢でさえあった。
美鳥や乃絵に対していたのとは、まるで別人だ。
しかし、だからこそ頼もしく見える。
作品名:天女の血 作家名:hujio