天女の血
けれども、そんなことは言わずにいる。
その代わり、星戴学園はどんな学校であるのかを聞いた。
自然な流れで、建吾は学校の話をしてくれる。
やがて、伊左駅に到着した。
美鳥は建吾と共に電車を降りて、駅からも出る。
駅から自宅までのいつもの道を歩く。
あの神社のまえも通りすぎた。
しばらくして。
前方にある十字路の左手のほうから、ひとがあらわれた。
「!」
美鳥は息を呑んだ。
歩く足が止まる。
あの男だ。
昨日、襲ってきた男だ。
とっさに美鳥は建吾の腕をつかんだ。
あの男のいるほうに行かせてはいけないと思った。
建吾も立ち止まった。
「美鳥さん」
「あの男に近づかないで」
腕をつかむ力を強くする。
あれは尋常ではないもの、戦って勝てる相手ではない。
その美鳥の恐れを感じ取ったように、男は余裕たっぷりに笑う。
「おまえの血がほしい」
美鳥を見すえて言った。
直後。
「やらない」
建吾がきっぱりと拒絶した。
電車の中で見せていたのとはまるで違う、厳しい表情。
「美鳥さん」
男をにらみつけたまま、建吾は言う。
「あなたのことは俺が絶対に護ります」
そして、腕を引き、一歩まえへ踏みだした。
美鳥の手は離れた。
どうしよう。
悩む美鳥の眼のまえに、建吾が立っている。
広い背中だ。
「言っておくが」
建吾は男に向かって告げる。
「俺は強いぞ」
その声、その背中には自信がみなぎっている。
自分の強さを確信しているのだ。