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天女の血

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「ええと」
建吾は戸惑いを隠せていない。
「名前を聞いてもいいですか?」
「園田乃絵」
「園田さんは電信柱に親近感を持っているんですか?」
「うん。道を歩いたら近くにあるし、それに、電信柱があるおかげで通信できたりするんだよ!」
心からそう思っている様子で、乃絵は言った。
まぶしいぐらいの笑顔だ。
一方。
「……それは、たしかにそうですね」
同意する建吾の声は少し重い。
気分が沈んでいるようだ。
「じゃあ、電信柱で決まり!」
対照的に、明るく乃絵は告げた。

ガラスの向こうで、見慣れた景色が流れていく。
美鳥は電車の中のドアのそばに立っていた。
近くに建吾がいる。
乃絵とは高校の最寄り駅で別れた。家が逆方向にあるのだ。
それにしても、と美鳥は思う。
無言で立っている建吾を眺める。
やっぱり、格好いい。
水際立つというのはこういうことを言うのだろうか。
まわりからすっと浮かびあがる感じだ。
人目をひく。
強い存在感。
建吾が美鳥を見る。
綺麗な二重が刻まれた眼が向けられた。
捕らえられているような感覚に陥る。
「やっぱり、緊張しますか?」
「え?」
「俺といると緊張しますか?」
そう問われ、美鳥は首をかしげる。
なぜそんなことを聞くのか、よくわからない。
「……園田さんの言ったこと、当たってるんです」
「電信柱が?」
「いえ、それではなく」
建吾は否定した。
そして、続ける。
「まわりがちょっと距離を置いてるってヤツです」
「ああ」
あれのことか、と思った。
「敬遠されてるって感じですか?」
「そうですね」
建吾は遠い目をした。思い出しているのだろう。
表情が少し陰る。
寂しげな印象。
作品名:天女の血 作家名:hujio