天女の血
ぎょっとする。
ふたたび、眼を向ける。
近づいてきているのが見えた。
だれかを待っているとクラスメイトから聞いたが、そのだれかとは美鳥のことであったらしい。
人違いじゃないんですか、と言いたくなる。
しかし、向こうはこちらの顔を見たうえでフルネームを呼んだ。
人違いであるはずがない。
でも、どうして私なの。
困惑する。
「俺は宮本建吾です」
足を止めると、そう名乗った。
「けいさんに呼ばれて来ました」
ケイサン?
なんだろうと思ったが、次の瞬間、美鳥の頭の中で、圭さん、と変換された。
「圭さんは俺の母の弟です。俺にとっては伯父にあたるひとです」
つまり、白坂家の血縁の者だ。
昨日、圭は応援を呼ぶと言っていた。
どうやら、その応援とは、今、美鳥の眼のまえにいる、やたらと目立つ彼のことであるらしい。
圭は美鳥の下校の護衛をさせるつもりなのだろう。
登校中は圭が少し離れたところから見守ってくれていた。
「ねえ」
乃絵が声をあげた。
「どういうこと?」
疑問に思うのは無理もない。
だが、なんと返事をしたらいい。
美鳥が困っていると、建吾が答える。
「昨日、美鳥さんは変質者に遭遇したんです。その変質者がまた襲ってくると、いけないので」
「えっ」
乃絵の顔色が変わった。
「昨日って、昨日のいつのこと!? 昨日は私と会ったよね」
「実は、その帰り、駅から家までの道で」
これは美鳥が答えた。
嘘ではないので答えやすかった。
「聞いてない」
「ごめん。心配させたくなくて」
「……美鳥は悪くないか。悪いのは、その変態ヤローだもんね」
乃絵は納得したようだ。
ほっとする。
それもつかの間。
乃絵は建吾に視線を走らせた。
「でも、なんで、このひとが来たの?」
う、と美鳥は内心うめいた。