天女の血
「オギちゃん」
声をかけられた。
少女の声。
小城はそちらのほうを向く。
もちろんそこにいるのはこの高校の生徒だ。
見覚えもある。
少女は眼が合うと、嬉しそうに笑った。
純粋な好意が伝わってくる。
小城は笑顔を返した。
「はー」
乃絵がため息をついた。
「疲れたなぁ」
そのわりには元気よく階段をおりている。
美鳥も階段をおりながら、問う。
「そんなに掃除を一生懸命やったの?」
「まーね。なんか男子がだらだらしてて、イラッとして、がんばっちゃった。って言っても、美鳥のお父さんほどしっかり掃除してないよ」
「うちのお父さんの場合、掃除は趣味だから。嬉しくて嬉しくて疲れたりしない」
明良はホコリが積もっているのを見ると、それを他人に指摘して掃除させたりはせず、眼を輝かせて掃除をするようなひとだ。
おかげで、家はたいへん綺麗である。
中古物件を購入した理由は、新築より安いということが大きいのだろうが、家一軒を掃除して新築なみにピカピカにしたかったからというのもあるかもしれない。
休日に用がなければ家の掃除を熱心にしている。
美鳥が手伝おうとすると困った顔をする。
自分ひとりでやりたいのだ。
我が父親ながら少し変わっているように思う。
「そーやって、自分から進んでやってくれるのって、いいよね」
乃絵は階段から一階の廊下へとおりた。
そして、うーん、と伸びをした。
ブラウスの向こうで胸が揺れたのがわかる。
乃絵は背が低いほうだが、肉付きがいい。
胸も大きい。
美鳥はそっと眼を乃絵の胸のあたりからそらした。
やっぱり、うらやましい。
自分は真っ平らではないのだが、小さいほうだ。
「どうかした?」
乃絵がきょとんとしている。
「ううん、なんでもない」
美鳥は首を左右に振る。
気にしないでおこう、と自分に言い聞かせた。