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天女の血

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けれども、警察に通報しなかったことを申し訳なく感じる。
犯人に遭遇したのに、手がかりとなる情報を知らせなかった。
石灯籠の件だけではなくて、五件の殺人事件についての重要な情報だ。
知らせるべきだと思う。
だが、十兵衛が言ったように、実際にその場にいて自分の眼で見たのでもなければ信じられないような話である。
相手にされないだろう。
しかし、このままでいいのだろうか。
あの犯人は逮捕され、裁きを受けるべきだ。
頭がおかしいと思われるのを覚悟のうえで、警察に話したほうがいいのではないか。
そう美鳥が悩んでいると。
「お待たせ」
明るい声が聞こえてきた。
近くに、乃絵が笑顔で立っている。
美鳥が図書室にいるのは掃除当番の乃絵を待っていたからだ。
「オギちゃん」
乃絵の眼が小城に向けられる。
「なにしてるの?」
「本が読みたくなったから、いい本がないか探しに来た」
「ふーん。なんか意外」
「意外?」
「図書室はオギちゃんのイメージじゃない」
「へえ。こう見えても、よく図書室や図書館で調べ物をするんだけどね」
「そうなんだ」
相づちを打つと、乃絵はふたたび美鳥を見た。
「じゃあ、帰ろ」
あっさりとした様子だ。
女生徒に人気の養護教諭に、たいして関心がないらしい。
「うん」
美鳥はうなずく。
顔には出さないようにしたが、ほっとしていた。
小城が苦手なわけではなく、さっきまでの話題から離れたかった。
「じゃあね、オギちゃん」
「あまり寄り道をしないように」
「しないよ。今日は」
乃絵と小城は軽いやりとりをした。
美鳥は足を踏みだしつつ、小城のほうに軽く頭をさげる。
図書室の出入り口のほうへと美鳥と乃絵は進む。
去っていく。
ふたりのうしろ姿を、小城は顔に笑みを浮かべたまま見送る。
「失せにけり、か」
富士の高嶺、かすかになりて、天つ御空の、霞にまぎれて、失せにけり。
羽衣で天女が去っていくときの一節だ。
美鳥と乃絵が図書室から出ていった。
作品名:天女の血 作家名:hujio