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天女の血

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二、


パラパラと何ページかめくっていた本を結局とじて、本がずらりと並んでいる隙間にもどした。
それから、美鳥はメガネのブリッジを軽く押さえた。
髪はいつものようにうしろでひとつにまとめている。
服装は、半袖の白いブラウスに、灰色のプリーツスカート。
胸元には赤いリボンが綺麗に結ばれている。
志貴川高校の制服である。
美鳥の住んでいる市の隣の市にある高校だ。
その図書室にいる。
窓の外は明るい。
校庭では運動系の部が活動しているようだ。
今は放課後である。
美鳥は週に一回のみ活動する調理部に所属していて、今日は部活はない。
図書室の本棚と本棚のあいだを、本の背表紙を眺めながらゆっくりと移動する。
ふと、足を止めた。
近くにある一冊の背表紙に指をかける。
引き出して、手に取る。
能の本だ。
表紙には面をつけて扇を手にして舞っている姿の写真が掲載されている。
昨日、十兵衛と圭が安達原という謡曲の話をしていた。
それを思い出した。
目次を見る。
その中に、羽衣、というタイトルがある。
羽衣。
天女。
そう連想し、美鳥は目次に記された数までページをめくった。
内容を読む。
羽衣というタイトルの謡曲があるらしい。
その謡曲は三保の松原の天女伝説をモチーフに作られたという。
駿河の三保の松原に、天女が遊びに来る。
白龍という名の漁師が松の枝にかけられた天女の羽衣を見つけ、持ち帰って家宝にしようとする。
天女は羽衣が無くなっているのに気づき、羽衣が無ければ天に帰ることができないので、白龍に羽衣を返してくれるよう頼む。
白龍は天女に懇願されて、返すことにする。
ただし、その代わりに、舞を見せてほしいと言う。
「いや疑いは人間にあり、天に偽りなきものを」
そばで男の低い声が聞こえ、美鳥はビクッと震えた。
声のほうを見る。
二十代後半の男が立っている。
不審者ではなく、よく知った顔だ。
小城聡一郎。
この高校の養護教諭である。
春に赴任してきたばかりだ。
大人ではあるが、まだ若いといえる年齢で、しかも顔がいい。
そのうえ、人あたりもいい。
というよりも、美鳥からすると、少し軽いように感じる。
独身で、恋人の存在は不明。
この高校の女生徒の多くは、オギちゃん、と小城のことを呼んでいる。
親しくなりたがっている者もけっこういるようだ。
バレンタインディには保健室がすごいことになりそうだと、美鳥は予想している。
作品名:天女の血 作家名:hujio