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天女の血

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「明良」
圭の眼が明良に向けられた。
「それで、いいよな?」
そう問われ、しかし、明良は黙っている。
その明良の様子を見て、美鳥は家に帰ってきたばかりのことを思い出す。
明良は圭に、帰れ、と怒鳴っていた。
あんなふうに声を荒げるのはめずらしいことだ。
まだ会ってからたいして時は過ぎていないものの、圭は誠実なひとであるように感じる。
明良は圭を嫌っているのではないのだろう。
拒絶したのは、春日家と関わりを持ちたくないからなのだろう。
護ってくれなくていい。
そう拒絶した明良の声が美鳥の耳によみがえった。
明良が口を開く。
「ああ」
あのときとは真逆のことだ。
「それが美鳥のためなら、それでいい」
強い眼差しで圭を見返して、告げた。

もうすっかり日は暮れてしまっている。
美鳥は家の外にいた。
帰る十兵衛を見送るためである。
十兵衛は門を通りすぎたところで、美鳥を振り返った。
「護衛がつくみたいだが、気ィつけろよ」
護衛とは圭と圭が呼ぶ応援のことに違いない。
「うん」
「まァ、なんかあったら携帯に連絡してくれ」
お互いの携帯番号とメールアドレスは、居間で明良の厳しい視線を感じながら、交換した。
どうやら明良は十兵衛が美鳥に手を出そうとしているのではないかと疑っているらしい。
しかし、口を閉じたままでいた。
十兵衛はあの男と戦い、美鳥を助けた。
連絡を取り合えるようになっているほうが、美鳥のためになると思ったのだろう。
「駆けつけてやるからよ」
十兵衛はさらっと言った。
その言葉が、胸をくすぐる。
嬉しいと思う。
だが、続きがあった。
「そしたら、強いヤツとケンカができる……!」
「やっぱりそれか!」
反射的に、美鳥はツッコミを入れた。
つくづくケンカバカだ。
少しあきれる。
十兵衛はニヤと笑った。
「じゃあな」
短く別れの言葉を口にし、身体の向きを変えた。
道を歩き始める。
「ねえ!」
美鳥は門から道へ出て、十兵衛のうしろ姿に声をかける。
「助けてくれて、ありがとう」
家に帰ってくるまえに礼は言ったが、あらためて言いたくなって、そうした。
けれども、十兵衛は振り返らない。
ただ、右の手のひらを肩の上まであげ、ひらひらと軽く振った。
しかし、その手はすぐにおろされた。
夜の帳の降りる中、十兵衛は去っていった。










作品名:天女の血 作家名:hujio