天女の血
なるほど、と美鳥は納得した。
自分を襲ってきた男のことを思い出す。
たったひとりでも、印象は強烈。
姿を見ていない者たちのあいだでも、その異常な犯行で存在を知られている。
あの男に犯行そのものを隠す気がないからだろうが、隠す気があっても、食人あるいは吸血による殺人が大量に行われれば、隠し続けるのは困難だろう。
鬼の一族の存在が知られることになるだろう。
「じゃあ、あの男は鬼じゃない……?」
「そうとも限らないだろう」
美鳥のひとりごとのような問いに、圭が答える。
「突然変異の可能性もある」
圭は明良をちらりと見た。
すると。
「それは、そうかもしれない」
明良はうなずいた。
深く考えているような表情だ。
なにを考えているのだろう。
美鳥は気になった。
その隣で。
「あの姿からしたら、鬼だからなァ」
十兵衛が真面目な表情を崩して、声をあげる。
「鬼の突然変異ってのが、今のところ、一番しっくりくるか」
だから、美鳥は視線の先を明良から十兵衛に移動させた。
十兵衛は明良と圭を見て、言う。
「じゃあ、仮にアイツを鬼の突然変異として、なんか対応策はあるのか?」
「俺が護る」
「アンタは鬼を退けることができる技とか持ってんのか?」
「武道の修練をして身体を鍛えてはいるが、鬼を退けるための技は習得していない」
「それで大丈夫なのかよ?」
「白坂の血縁の者をひとり、応援に呼ぶつもりだ」
「ソイツ、強いのか?」
「ああ」
圭はきっぱりと肯定した。
すると、十兵衛の眼が輝いた。
嬉しそうだ。
どうやらケンカバカの血が騒いでいるらしい。
さっきまでの話の中で、知識の豊富さと頭の回転の速さを見せてきた。
だが、今は、美鳥よりも年上なのに年下のように見える。
子供みたいだ。
それが、おかしい。