天女の血
明良が眼をそらした。
その顔に表情はなく、黙っている。
「……俺たちは鬼について詳しいわけじゃない」
圭が言う。
「ただ、天女や鬼といった伝説上の存在という共通点があるため、それぞれが実在していることを認識している。多少は交流もある。だが、お互い、自分たちのことを詳しくは話さない」
「多少は交流がある。じゃあ、アンタは鬼に会ったことがあるのか?」
十兵衛が身を乗りだし、話に入ってきた。
それに対し、圭は冷静に答える。
「会ったのではなく、見たことはある。ただし、変化したところを見たことはない」
「それでよく鬼だってわかったな」
「相手が有名だからだ」
「有名?」
「名は伏せるが、大企業の創業者一族のトップの長男だ。おまえも名前を聞いたことがあるかもしれない。その創業者一族が鬼の一族だから、鬼の一族の次期頭領でもある」
「鬼の一族が大企業の創業者一族ねえ。鬼がそんなに目立っていいのかよ」
「天女の血筋である春日家も昔は庄屋で、今も郷の中心だ。尋常ではない存在は災厄をもたらしたりするが、福をもたらしたりもする」
「規模が違わねーか? こう言っちゃ悪いかもしれねェが、そっちは地方で、あっちは全国区みたいな感じだろ」
「春日家はこれ以上のことを望んでいないだけだ」
「鬼の一族のほうが欲深いってことか?」
「さあな。もしかすると、マイノリティである自分たちを護るためだったかもしれない」
「護るために、デカい城を造ったってことか」
「あくまでも推測だ」
十兵衛はなにかを考えているような表情になり、それから、ふたたび圭を見た。
「その推測を採用して話を進めるが、ヤツらはデカい城を造ろうと思えば造れたってことだよな」
「ああ。彼らにはなにか特殊な力があると聞いたことがある」
「じゃあ、なんで、その力でこの国を支配しようとはしねェんだ?」
その問いに、さすがに即座ではなかったが、あまり間を置かずに圭は返事をする。
「これも推測にしかすぎないが、彼らはマイノリティだし、それにこの国を支配したいとは思っていないんじゃないか。国のトップに立てば、それ相応の責任を背負うことになる」
「だから、天下を取るより、実利を得るほうを選んだってことか」
「その可能性はあるだろう」
「まあな」
十兵衛は納得したようだ。
しかし。
「……それで、その鬼たちはひとを食らったりするのか? 血を吸うのか?」
また質問した。
「そんな話、聞いたことがない」
答えたのは明良だった。