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天女の血

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自分は男に襲われている。
しかし、あたりにひとはいない。
だれも見ていない。
道沿いに家が建ち並んでいる。
叫んで助けを求めたい。
だが、口をふさがれていて声が出せない。
美鳥は抵抗する。
けれども、抑えつけてくる力は強くてびくともしない。
まるで幼い子供と大人のようだ。
男は美鳥を拘束したまま歩きだす。
神社のほうへ、つれていかれる。
イヤ……!
だれか助けて!
胸の中で叫ぶ。
近くの家からだれかが出てくることを、この道にだれかが来ることを願う。
だが、その願いは叶えられなかった。
境内に入った。
取り囲むように樹が生えている。
たとえ近くの道をだれかがとおったとしても、美鳥が男に襲われているのに気づかないだろう。
心臓が早鐘のように打っている。
自分はどうなるのだろうか。
こわい。
男が強く抱きしめてきた。
その身体が密着する。
歳は二十代後半ぐらいだろうか。
身体は中肉中背。
筋肉質という感じではないのに、力はかなり強い。
「いいにおいがする」
間近で、男が嬉しそうに言う。
「五人目の女と同じだ」
五人目。
そう聞いて、美鳥の頭に、さっき電車の中で読んでいた記事がひらめいた。
吸血鬼事件の被害者の数は五人。
全員、死亡している。
失血死だ。
体内から大量の血が失われていた。
頸動脈のあたりには、牙が突き刺さったような跡があった。
だから、一連の殺人事件は吸血鬼事件と呼ばれている。
「あの女の血はうまかった。身体も良かった」
被害者はすべて女性。
どのような手段でか血を大量に奪われただけではなく、そのまえに性的暴行も受けたらしい。
「だから、すぐには殺さず、じっくり楽しんだ」
被害者五人のうち、四人は行方不明になった日から丸一日もたたないうちに殺された。
しかし、五人目だけ、犯人に拉致されてから殺されるまで三日あった。
そう報道されている。
作品名:天女の血 作家名:hujio