天女の血
「俺がここに来た理由だが」
圭がまた話し始める。
「吸血鬼事件の五人目の被害者が春日家の血筋の者だとわかったからだ」
その言葉が胸に突き刺さってきた。
神社でのことを、吸血鬼の姿を、思い出す。
心が引き締まる。
「五人目の被害者の女性は、春日家の何代かまえの当主の四男の子孫だ。その四男は明良のように春日家を出て、それから関係を絶っていたらしい。だから、これまで、春日家の血筋の者だとわからなかった」
「だが、血筋の者はその五人目だけなんだろ?」
「ああ」
「なら、被害にあったのは偶然じゃねーのか?」
「そうだな。被害にあったこと自体はおそらく偶然だろう。だが、五人目の被害者と、それまでの四人の被害者には違いがある」
「ヤツにいたぶられていた時間の長さ、か」
「そうだ」
「天女の血筋の者の血はうまいのか?」
「俺に血の味の良し悪しはわからない。ただ、血を好むものにとっては天女の血筋の者の血は良いものなのかもしれないと思った。それで味を覚えて、同じような血を持つ者を探すかもしれないと考えた」
美鳥の耳に、吸血鬼の声がよみがえった。
五人目の女と同じだ。
あの女の血はうまかった。
おまえは、あの女よりも、いいにおいがする。
おまえの血はうまいんだろうな。
それを思い出して、寒気を感じた。
「……アンタの読みは、たぶん、アタリだ」
十兵衛がやや重い声で告げる。
真剣な表情。
彫りが深く、整った顔は、いっそう鋭く見える。
「それで、あの吸血鬼に心あたりは?」
「これも想像にしかすぎないが、さっき聞いた特徴からすると、日本の鬼ではないかと思う」
「ヨーロッパ起源のヴァンパイアじゃなくってことか」
「ああ」
「実は俺もそんな気がしてた。牙はともかくとして、あの角。それに、赤い眼」
ふと、十兵衛は美鳥のほうを見た。
「ホオズキは知ってるよな?」
「うん」
「あれは漢字では、鬼の灯、って書く。鬼の目玉のようだから、らしい」
「へえ」
赤く輝く眼。
あれは、鬼の眼だったのだろうか。