天女の血
自分はずっと若い姿であり続けるかもしれない。
若いままでいるのは憧れ。
しかし、それが現実に自分の身に起きることになったら?
まわりから浮きあがる。
奇異なものを見るような眼で見られることになるだろう。
「……アンタの住んでるところなら、ずっと二十歳そこそこの姿のままでも大丈夫なんだな?」
落ち着いた声で十兵衛が圭にたずねた。
つまり、外見が歳をとらなくなっても、まわりが受け入れてくれるかどうかということ。
「ああ。天女の郷だからな。郷の者は天女の血筋の者を護る」
「そうか」
「郷には四守護家と呼ばれる家が四つあり、春日家を守護している。俺はその四守護家のひとつの生まれだ」
「四守護家、ねえ」
十兵衛はなにかを考えているような表情になり、そして、言う。
「それで、アンタの名字が白坂。シラサカのシラは色の白だろ。ってことは、残り三つの家の名字には、青、赤、黒が付くんじゃねーか?」
「白坂の他は、青野、丹羽、黒瀬だ」
「やっぱりな」
「ねえ、どういうこと?」
気になって、美鳥は聞いた。
「四神に基づいているんじゃねーかと思ったんだ」
「シジン?」
「四つの神と書いて、四神だ。霊獣である、青龍、朱雀、白虎、玄武を、まとめてそう呼ぶ」
「なんとなく聞いたことがあるような……」
「白坂は白虎だろ。なら、その家は春日家から見て西の方角にあるんじゃねェか?」
「ああ」
「どういうこと?」
「白虎は西、青龍は東、朱雀は南、玄武は北を司るとされているからだ」
すらすらと十兵衛は答えた。
ただのケンカバカとは思えない。
圭も感心した様子だ。
「詳しいな」
「大学の専攻が民俗学だからな。民俗のゾクが家族の族じゃなくてニンベンに谷のほうの」
「へえ」
「まわりは俺を武闘派フィールドワーカーと呼ぶ」
こんなところは、やっぱりケンカバカだ。
だから。
「それ嘘でしょ。今、作ったでしょ」
つい美鳥はツッコミを入れた。
「……」
十兵衛は返事せずに、視線をなにもない空中に向けている。
どうやら図星だったようだ。
その様子が、おかしい。
美鳥の心が少し軽くなった。