天女の血
「なァ、さっき、天女の血に目覚めてた、って言ったよな?」
「ああ」
「じゃあ、子孫の中でも天女の血に目覚める、目覚めないが、あるのか?」
「ああ、そうだ」
十兵衛の質問に、やはり、明良ではなく圭が答える。
「条件は、まず、女性であること」
「そりゃ天女だからな」
「だが、男しか生まれなかった場合は、血は眠ったまま長男に受け継がれ、その長男に娘が生まれたら、娘が複数の場合は長女が天女の血に目覚めることになる」
「それで、今はどうなってるんだ?」
「時子様の子供は現在の当主で明良の父にあたる方おひとりだ。そして、現在の当主には明良を含めて子供は三人。全員、男で、明良は三男だ」
「てことは、えーと、めんどくせェから呼び捨てるぞ、美鳥は天女の血が目覚めることはないってことだな?」
名前を呼ばれて、美鳥の心臓が跳ねた。
十兵衛が聞いたことは美鳥も気になっていたことだ。
明良は堅い表情で黙っている。
答えてくれそうにない。
だから、圭をじっと見る。
少し間があったのち、圭は言う。
「天女の血に目覚めた女性がいて、その方が男しか生まなかったことはこれまでも何度かあった。だが、その長男に娘が生まれなかったことは、今回が初めてだ」
その声がこれまでよりもわずかに重く感じられる。
「異例なんだ」
圭は続ける。
「そして、当主の長男にはふたり、次男にはひとり、子供がいるが、全員、男だ」
「娘は美鳥だけってことか?」
「そうだ」
「だが、美鳥は三男の娘だろ」
「たしかにそうだが、明良の代ですでに異常事態が起こっている。その次の代で異例があってもおかしくない」
「それって」
思わず、美鳥は口をはさむ。
「私が天女の血に目覚めるかもしれないってこと?」
これまでの圭の話によると、天女の血に目覚めるということは二十歳ぐらいで歳をとらなくなるということだ。
いつまでも若いまま。
まわりが年を重ねていく中で。
圭はすぐには答えない。
返事をためらっている。
その理由がなんとなくわかって、こわい。
やがて、圭は口を開く。
「ああ、その可能性がある」
「美鳥は大丈夫だよ」
ふいに明良が強い口調で言った。
真剣な眼で美鳥を見すえている。
「美鳥はちゃんと歳をとるから、きっと」
きっと。
それは明良の願いだ。
確実なことではないのだろう。