天女の血
どういうことなのか。
わからなくて、美鳥は十兵衛の横顔を見る。
十兵衛は話す。
「たとえば、旅芸人や旅の僧を泊めた家がそのあと裕福になったとする。なぜ、あの家は金持ちになったのか。それをまわりが想像し、あの家の者が旅芸人や旅の僧侶を殺して金品を奪ったからだってウワサになる」
堅い声に、真面目な顔つき。
ケンカをしたがっていたときとは印象がまるで違う。
「本当にそういうことがあったのかもしれねえ。だが、まわりの者のただの想像かもしれねえ。後者の場合、まず長者の家があって、長者になった理由が後付けされたってことだ」
つまり、事実かどうかは別問題ということなのだろうか。
「殺しなんていう物騒な話をしちまったが、逆の例もある。たとえば、座敷ワラシとか。あの家が裕福なのは、座敷ワラシがいるからだ、ってな」
十兵衛がなにを言いたいのか、なんとなくわかってきた。
けれども、美鳥は黙っていた。
十兵衛は続ける。
「天女ってのも、それと似た話じゃねえのか。春日家っていう庄屋があって、裕福になったのは天女と結婚したからだって理由が付けられ、その理由が伝説となって、天女の子孫ってことになったんじゃねえのか」
それなら美鳥も納得できる。
自分が天女の子孫だと思わずに済む。
しかし。
明良と圭は口を閉ざしている。
十兵衛の話を肯定しない。
ふたりとも、なにか思うところがあるような表情をしている。
それに。
「だが、そうじゃねえのかもな」
十兵衛は自分の説を否定した。
「本当に春日家は天女の子孫の家なのかもな」
「まさか」
つい美鳥は言った。
まさか、ありえない。
そう思う。