天女の血
だが、明良を責める気にはならなかった。
明良が美鳥に嘘をついていたのは間違いない。
しかし、悪意はなかったはずだ。
傷つけるつもりもなかっただろう。
いや、傷つけたくはなかっただろう。
そんなの、わかっている。
結果として、美鳥の信頼を父が裏切る形となった。
でも、いい。
うつむいて苦しそうにしている父の姿を見て、美鳥はそう思った。
これまで明良がどれだけ自分に対して愛情を注いでくれたか。
その想いが嘘ではないことは、よくわかっている。
だから、これは裏切りじゃない。
ちょっとした間違いだ。
そう思うことにする。
「どうして家出したの?」
美鳥はさっきまでよりは落ち着いた声で聞いた。
「春日家は特殊な家なんだ」
それに答えたのは圭だった。
「明良には合わなかった」
「特殊な家って、どういうことですか?」
気になるような表現を圭がしたから、美鳥はたずねた。
けれども、圭は黙っている。
言いよどむように。
身内でもなければ信じられないような話だ。
そう圭が言ったのを、美鳥は思い出した。
言いよどんでいるのが、その話なのだろうか。
美鳥は圭が話してくれるのを待つ。
信じられないような話でも聞きたい。
知りたい。
圭は美鳥を真っ直ぐに見た。
精悍で男らしい顔立ちだ。
その人柄は、会って間もないが、信用できる気がする。
圭は口を開く。
「信じられないかもしれないが」
そう前置きしてから、告げる。
「春日家は天女の子孫の家なんだ」