天女の血
美鳥は胸に衝撃を覚えた。
眼のまえが、一瞬、暗くなった。
足がちゃんと床についていないような、ふわふわとした感じがする。
両親も兄ふたりも元気。
それは、つまり。
「お父さん」
いつのまにか口から声が出ていた。
「今まで私に嘘をついていたの?」
圭が言ったことが事実なら、家族を早くに亡くしたという明良の話は嘘になる。
お父さんが嘘をついていた。
信じていたのに、裏切られた。
そんなふうに思いたくない。
だから否定してほしい。
けれども。
明良は美鳥をじっと見た。
その口が開かれる。
「美鳥、ごめん」
謝った。
なにに対してなのか。
嘘をついていたことに対してに決まっている。
明良は続ける。
「お父さんは高校を卒業してすぐに家を出た。あの家とは縁を切ったつもりでいた。関わりを持ちたくなかったから、親兄弟は亡くなったことにした」
「なんで?」
美鳥は問う。
「家出して、実家と関わりたくないのなら、そう話してくれたら良かったのに。なんで嘘をついたの?」
すると、明良は眼を伏せた。
「……みっともないと思ったから」
うつむいたまま、答える。
「家出して、その家族とはもう連絡を取りたくないなんて、自分が親になっているのに、みっともないって思った」
苦しんでいるのが伝わってくる声。
本当は話したくないことなのだろう。
それでも、苦しみながらも、言葉をしぼり出している。
「美鳥を傷つけてしまって、申し訳ないと思ってる」
ふたたび謝罪した。
美鳥は口を引き結ぶ。
胸の中が苦い。