天女の血
「おまえはそうとう強いようだな」
手当しながら、圭は言う。
「口からの出血は単に口の中を切っただけのものだ。病院に行かなければならないような深い傷はひとつもない。うまく避けたな」
「そういうアンタもかなり強そうだ」
ニヤと十兵衛は笑った。
「なァ、俺とケンカしてみねェか?」
「断る」
即座に、圭はきっぱりと告げた。
十兵衛は顔をしかめる。
「つまらねえ」
本当にケンカバカだ、このひと。
美鳥はメガネのブリッジを押さえながら思った。
「ねえ」
十兵衛に話しかける。
「お茶をいれるけど、なにがいい?」
「紅茶」
「……やっぱりイギリス人は紅茶が好きなんだ」
「ああ。じいさんは紅茶をマイボトルに入れて持ち歩いてるぐらいだ」
「へえ」
「そうだ、季節柄アレだが、アイスじゃなくてホットで。それから、これはできればだが、ティーバッグじゃないほうがいい」
細かく注文してきた。
こだわりがあるらしい。
しかし、美鳥にとってはなんの問題もないことだ。
「リーフなら、フォションのアップルティーとフォートナムメイソンのロイヤルブレンドがあるけど?」
本当は他の銘柄もあるのだが、特に有名な物にしぼってみた。
「是非、ロイヤルブレンドで」
十兵衛は即答した。
どうやら、どちらの味も知っているようだ。
「了解。あ、でも、スコーンは買い置きがないから無理」
「イエ、そこまで期待しておりません。というか、俺、アレ、あんまり好きじゃねーし」
「そうなんだ」
美鳥は相づちを打つと、踵を返した。
台所へ向かう。
「なァ」
居間を出ようとしたところで、十兵衛に呼び止められた。
美鳥は振り返る。
「なに?」
「アンタ、高校生?」
意外なことを聞いてきたと思った。
脈絡がない。
けれども、たいしたことではないので素直に答える。
「うん。高二」
「じゃあ、歳は」
「四月生まれだから、十七」
誕生日は四月五日だ。