天女の血
だが。
それにしたって。
「いくらなんでも、言いすぎだと思う」
美鳥はふたたび明良のほうを向いて、言う。
「私の命の恩人なのに」
「命の恩人……?」
明良が眉根を寄せた。
そして、ハッとした表情になる。
「そういえば、服とカバンが汚れてる……!」
そう明良に指摘されて、美鳥は自分の服とカバンを見た。
たしかに土がついている。
「……えー、俺の傷のほうが目立つと思うんですが?」
その十兵衛の発言は無視された。
「美鳥、なにがあったんだ!?」
「帰り道で、男に襲われたの。でも、この遠山十兵衛さんが助けてくれたから、大丈夫だった」
「遠山十兵衛? 古風な名前だな」
「……親子そろって同じコメントかよ」
その十兵衛の発言も無視する。
「襲ってきた男についてなんだけど」
美鳥は襲われたときのことを思い出した。
あの男のことを思い出す。
「吸血鬼事件の犯人だと思う」
赤く光る眼、二本の角、鋭い牙。
「五人目の女の血がうまかった、身体も良かったとか言ってた。私のほうがいいにおいがする、私の血のほうがうまいんだろうとか言ってた」
思い出して、ゾッとした。
本当におそろしかった。
美鳥はカバンを持っていないほうの手でカバンを持っているほうの腕をなでる。
そのとき。
「やっぱり、か」
男の声がした。
白坂圭の声だ。
美鳥はそちらのほうを見る。
「やっぱりって、なに」
「君が狙われるかもしれないと思っていた。だから、俺はここに来た」
「それはどういうことですか?」