天女の血
居間には男がふたり立っている。
背の低いほうが父の明良だ。
そして、もうひとりはこれまで会ったことのない人物で、歳は三十代後半ぐらいだろうか。
印象は端的に言うと、デカい。
十兵衛よりも大柄だ。
バレーボール選手のような体格である。
「お父さん、これは一体どういうこと……?」
そう美鳥が問いかけると、明良は振り返った。
ぎょっとしている。
「み、美鳥、帰ってきてたんだ」
「このひとはだれ?」
美鳥は厳しい表情で背の高い男を指さす。
「あ、えー、このひとは白坂圭といって」
「お父さんの恋人か元恋人?」
「えっ、違うよ、違います。えー、なんて言ったらいいのかな。ああ、そうだ、お父さんの幼なじみです」
明良は否定したものの、気まずそうで歯切れが悪い。
「でも、さっき、このひと、お父さんのことを、なによりも大切な存在、とか言ってなかった?」
「ああ、それは圭の言語センスがおかしいからだよ。大げさというか、なんというか……」
なによりも大切な存在、が、大げさで済むのだろうか。
美鳥は眼を細めて考える。
「なァ」
十兵衛の声がした。
「俺、やっぱり帰るわ」
そう続けた。
「あ」
ちょっと待って、と美鳥は呼び止めようとした。
しかし。
「そこにいるのは、だれだ!?」
明良の声にさえぎられた。
ついさっきまでとは形相がすっかり変わっている。
「まさか彼氏……!? お父さんに紹介しようとつれてきたとか!?」
「えっ」
「違うよね!? 彼氏じゃないよね!?」
「お、お父さん、落ち着いて……」
「お父さんは認めません。だいたい、テレビ番組でよくやってる、娘がこんな彼氏をつれてきたら父親がどんな反応をするかっていう実験に出てくる偽物の彼氏みたいじゃないか!」
つまり父親が反対したくなるような相手であると。
美鳥は十兵衛をチラリと見る。
白坂圭ほどではないが、背は高い。
マッチョという感じではないが、筋肉質で引き締まった身体をしていて、強そうで、実際、強い。
その身体からは隠しきれないケンカ好きの攻撃的な雰囲気がうっすらと漂う。
派手なアロハシャツを着て、胸元ではネックレスのトップであるクロスが揺れている。
髪は栗色。
これについては地毛そのままであるらしいが、顔が彫りの深い日本人なので、クォーターであることを知らなければ染めていると思うだろう。
全体的に、品行方正という感じではない。