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天女の血

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その十九歳の学生が、尋常ではない状態にある十八歳のすべてを引き受けるなんて、簡単に言えるはずがない。
この先どうすればいいのか考える、そう返事するのが精一杯だったのだろう。
そして、その返事は、その場を切り抜けるための言い訳のようなものではなかったのだろう。
本気で考えるつもりだったのだろう。
圭も時子のしたことを知っている。
春日家の闇。
それは、四守護家の容認もあって生まれたものである。
ただし四守護家は反対したのだが、春日家が主で四守護家は従という立場であり、さらに状況が逼迫していたので、最終的に認めるしかなかったらしい。
けれども、結局は認めた、そうした状況になったということで、不安が残る。
女の身体にもなるようになった十八歳の明良をつれて郷を離れる。
それを、真剣に、考えたのだろう。
十九歳の学生の自分になにができるか。
大学を中退し、働く。
明良がいなくなってからではあるが、実際、圭はそうしたのだ。
圭は頭が良く、行動力もある。
努力すれば、最難関大学にも合格できただろう。
志望すれば、一流企業に就職することもできただろう。
しかし、圭はそれらの道を捨てた。
すべては、明良のために。
「ねえ」
明良は圭をじっと見て、問いかける。
「もしかして、ずっと、近くにいた?」
この家に圭がやってきてから、圭が近くに住んでいるのを知り、驚いた。
だが、それは作家として成功してからのことだろうと思っていた。
しかし、違うのかもしれない。
もしかすると、作家になるよりずっとまえからなのかもしれない。
「ああ」
圭は肯定した。
「おまえをやっと見つけてからは、ずっとだ」
ずっと、近くにいて、しかし会わないようにして、見守っていたのだろう。
そうするためには、ある程度自由のきく職業に就くしかなかったのだ。
それを思うと、明良の胸に迫ってくるものがあった。
自分が、くるわせた。
このひとの人生をくるわせてしまった。
その事実に圧倒される。
胸が、痛い。
「明良」
圭は穏やかな声で呼びかけてきた。
「俺はあんなことが起きるまえから、おまえの身体に異変が起きるまえから、もし、おまえが望んでくれるなら、おまえと郷を離れて、ふたりで暮らしたいと思っていた」
少し、明良は息を呑んだ。
言われたことの意味。
それは。
期待して、胸が大きく鳴った。
けれども、本当にそうなのだろうか。
そんな心配もあって、明良は声を無くしたように、ただただ聞いている。
「俺は、おまえが男でも女でも、どちらでも良かったんだ」
圭は続ける。
「俺は、おまえのことが、ずっと好きだった。今も、その気持ちは変わらない」
真っ直ぐで、揺るぎのない、強い眼差しが向けられている。
その眼差しからも、好きだと告げられているように感じた。
心が熱くなる。
ずっと、言われたかったことだ。
作品名:天女の血 作家名:hujio