天女の血
それから一週間もたたないうちに、祖母の時子が亡くなった。
老衰、だった。
その死因が信じられないほど、時子の遺体は若々しく美しいままだった。
明良は祖母の死を悲しんでいた。
けれども、その悲しみすら消し飛んでしまうようなことが、自分の身に起きた。
時子の死の数日後、自分の部屋にいたとき、ふと、奇妙な感覚に襲われた。
眼をつむり、少しして、眼を開けて、短いはずの自分の髪が長く伸びているのを見た。
自分の身になにが起こったのかわからなかった。
だから、鏡を見た。
鏡に映っている自分の顔を見て、息を呑んだ。
もともと女のようだと言われていた顔だったが、その鏡に映っていた顔は正真正銘の女の顔だった。
おそるおそる服を脱いでみた。
胸にふくらみが、乳房と呼べるものが、あった。
上半身だけでなく、下半身も確認した。
男性器が無くなっていて、女性器があった。
自分の身体は完全に女性のものになっていた。
気を失いそうになった。
現実のことだとは思えず、夢かと思った。
悪い夢だと信じたかった。
しばらくして、男の身体にもどった。
けれども、自分の身に起こったのは夢の出来事ではないことはわかっていた。
なぜ、こんなことに。
それを考えて、自分の身に起こったことと時子の死とを結びつけた。
時子が亡くなって、天女の血に目覚めている者がいなくなった。
だから、男であるはずの自分の中に眠っていた天女の血が無理矢理に目覚めさせられた。
そうとしか考えられなかった。
それから、たびたび、女の身体になるようになった。
しかし、自分の身体の異変を家族に話せずにいた。
春日家が没落しそうになったときに時子がなにをして春日家を立て直したのか、明良は知っていた。
もし春日家がふたたび没落しそうになれば、自分の天女の身体を利用しなければならなくなるのか。
そんなことはないだろうとは思ったものの、可能性を否定することができなかった。
明良は自分の部屋に引きこもるようになった。
天女の血が目覚めて、自分の身体が女性のものになることを、家族に知られたくなかった。
けれども。
心配した圭が何度も訪ねてきた。
何度目かの訪問のとき、圭を自分の部屋に入れ、その圭の眼のまえで普段の男の身体から女の身体へと変化して見せた。
圭にだけは、みずからの意思で、見せた。
女の身体にもなる自分を、圭に、受け止めてほしかった。
「……手、放して」
明良は堅い声で圭に告げた。
突き放すように。