天女の血
生まれ故郷にいた頃のことを思い出す。
両親、兄ふたり、そして身近にいる四守護家の者たちは皆、優秀で、学業成績が平均より少し上の明良は出来が悪い子供だとまわりから見なされていた。
なにをしても、自分に近い者たちと比べれば、劣る。
だからといって厳しく当たられたわけではないが、扱いはそれなりになった。
そんな中で、ひとつ年上の圭だけが違った。
いつも、明良を護ってくれていた。
大切にしてくれていた。
ひとつ年上で、学年もひとつ上になるので、通う学校が別のときもあったが、学校が同じ場合はふたりで登下校した。
圭は明良に対しては、よほどのことでもない限りは怒らず、わがままといえることでさえ受け止めてくれた。甘やかされていたようにも思う。
一緒にいて、一番、安心。
そう明良は感じていた。
だが、やがて、苦しみも感じるようになった。
圭のことを好きだと思う、その好意が、友情から来るものではないと気づいた。
友情ではなく、恋情。
初恋だった。
圭のそばにいると胸が高鳴ることが何度もあった。
触れられると、その体温を感じると、嬉しくなった。
ずっとそばにいてほしかったし、触れあいたかった。
自分は男で、圭も男なのに。
しかも、圭については、自分が女のように扱われることをうっすらと望んでいた。
こんなこと、圭に言えるわけがない。
明良は悩んだ。
一時的な気の迷いであることを期待したし、なんとか恋情を友情に変えられないかとも思った。
近くにいるのがいけないのかと思い、距離を置くことも考えた。
でも、その案を実行できなかった。
離れようとして、離れられなかった。
高校三年生の、進学先を決めるとき、圭の通っていた大学を受験することにした。
その大学は、明良の学力の場合、一生懸命に勉強すればどうにか合格できそうなレベルだった。
しかし、それは少し妙でもあった。
圭の学業成績はきわめて優秀。
もっと偏差値の高い大学でも合格しただろうに、進学した大学しか受験しなかったのだ。
まるで明良の学力レベルに合わせたように。
圭は明良の受験勉強につき合った。
かなり夜遅くまで同じ部屋にいて、明良が理解できない問題に行き当たると、圭はわかるように教えてくれた。
がんばっていることに対し、褒めてもくれた。
そして、明良は志望校に合格した。
勉強して、努力して、勝ち取ったのだ。
達成感があった。
嬉しかった。
明良の合格を知り、圭は自分のことのように喜んだ。
そんなふうに喜んでくれているのを見て、嬉しくなった。
好きだと思った。
一時的な気の迷いでないことを、友情に変えることができないことを、悟った。