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天女の血

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明良は立ちあがる。
「美鳥がもどってきたら、マズいから」
小声で、至近距離にいる圭に告げた。
今の姿を美鳥に見られるわけにはいかない。だから、自分の部屋に行くつもりである。
そんなことは圭もわかっているはずだ。
明良は圭が自分を放っておくだろうと思った。
しかし。
圭の横を通りすぎた直後、腕をつかまれた。
驚いて、明良は圭のほうを見る。
真剣な眼差しが自分に向けられていた。
「コントロールできないのか」
「できるよ」
圭の問いに対し、明良は即座に答えた。
ここに長居したくない。
「コントロールはもちろんできるよ。そうでなければ、普通の生活ができない」
コントロールできなければ、男として会社勤めしたり、美鳥の父親として暮らしていくことができないはずだ。
「だが」
「今のは、めずらしいんだ」
苦しいなと思いながら、言い訳として頭に浮かんできたことをすぐに口に出していく。
「最近、異常事態が続いてるから。疲れてるんだ。今のこれは、そのせいだよ」
とっさの言い訳としては上出来なほうではないだろうか。
そう思った。
けれども、圭は黙っている。
腕をつかんだままでいる。
自分の腕は、ついさっきまでよりも細い。
女の腕だ。
髪も、ついさっき一瞬にして、伸びた。
腰に届くほどの長さである。
圭がじっと見ている顔も、女の顔だ。
それも、この姿に変化するようになった時のままの顔である。
この姿の自分は十八歳で時を止めている。
もちろん、圭はそれを知っている。
だから、変化したこと自体に驚いているわけではないはずだ。
驚いているのではないのなら、なぜ、黙っているのか。
なにを考えているのだろうか。
気づいているのだろうか。
いや、気づいていてもおかしくはない。
ずっと、自分が男でしかなかった頃からずっと、想っていたことを。
作品名:天女の血 作家名:hujio